一橋大学

EUワークショップ(2021年9月29日)の報告のコメント

2021年11月1日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

欧州中央銀行制度の公文書不可侵原則コメント

何耘鋭 JM210011

公文書不可侵原則によって欧州中央銀行の文書が保護される範囲は、ユーロ危機以降、EUと加盟国の間で長年議論されてきた。本稿では、スロベニアで生じた、スロベニア司法当局が文書の返還を拒否した事例を取り扱い、EU公文書不可侵原則の適応可能性について探る。

 

スロベニア国内に所在する銀行の再編に関して権限と職務が濫用された疑いで、当時のスロベニア総裁を含む中央銀行の職員らに対して、当局による捜査が実施され、司法当局は、スロベニア­中央銀行の構内を探索し、電子媒体を含む資料を押収した。

 

今回の事例の争点は2つある。1つ目は、中央銀行が保有する欧州中央銀行の文書を押収することは、公文書不可侵原則に違反に該当するかどうかについてである。2つ目は、押収及び押収後の当局の行為は誠実協力原則に違反するかどうかについてである。

 

文書の押収が公文書不可侵原則の違反であると認められるには、第一に、一般的に決定された押収が同原則の違反に該当し、第二に、欧州中央銀行の公文書が、押収された文書に実際に含まれていなければならない。今回の事件では、公文書不可侵原則に違反するという判決が下された。また、スロベニアは、押収後の期間に関して、直接事件と関係ない書類をすぐに返還しないなど、欧州中央銀行と誠実に協力しなかったため、誠実協力原則の違反に該当すると判断されることになった。

 

コメント

授業の中では、熊本先生から一般的に国際機関ではどのように公文書が扱われているのか、すなわち国際的な公文書の不可侵の射程がどの程度なのかといった質問がありました。また、同様の質問として、秋山先生から、欧州中央銀行制度以外での公文書侵害をめぐる事例はあるのかという質問もありました。これに対して、吉本さんから、あんまり判例がないという前提のもとで、カナダの地銀の文書に関する不可侵についての判例があり、機能的な不可侵が認めれたと回答がありました。

 

最後に、中西先生より、発表の内容に関しては、公文書不可侵原則がどのように確立されてきたのかを含めるとさらに初学者に対してもよりわかりやすいものになるというコメントがありました。