一橋大学

EUワークショップ 2021年6月2日 コメンテーターのコメント

2021年6月14日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

一橋大学大学院法学研究科修士課程1年 何 耘鋭

 

EUのインド太平洋戦略の見通し

 

発表内容

 

フランス・ドイツ・オランダのインド太平洋戦略を参考にしつつ、『インド太平洋における協力のためのEU戦略』に関する共同策文書の内容の見直しを行った。EUがインド太平洋戦略を策定する目的は、政治と経済の重心がインド太平洋地域へ移動し、インド太平洋の重要性が増しているという現状認識のもと、民主主義、法の支配、人権、国際法の促進に基づき、地域の安定、安全、反映、および持続可能な開発に貢献することである。この目的意識は、すでに独自のインド太平洋戦略を定めたフランス、ドイツ、オランダ、EUを離脱した英国との共通認識である。また、先に挙げた国家間で目的達成のために重視する政策として、多国間主義を採ることに加え、海上交通路の確保、テロリズム・暴力過激主義への対抗およびサイバーセキュリティといった国際安全保障分野等については、重要だと考えられている。一方、各国の方針の相違点としては、インド太平洋に領土を持つフランスは軍事プレゼンスを重視しているのに対し、ドイツはインド太平洋地域の経済成長力に関心がある。オランダは、インド太平洋戦略の中で、EUが独自のインド太平洋戦略を設定することの重要性を指摘している。今後策定されるEUのインド太平洋戦略においては、国際的な影響力を拡大させている中国の動向が大きな焦点となる。

 

質疑

 

– EUは距離的に近いアフリカに対する戦略とアジアに対する戦略とではどちらのほうを重視しているのか

– EUの報告の中身において中国に対する政治的な思惑を含んでいる可能性もあるので、慎重に取り扱う必要がある。今後、通商・軍事・環境政策上の問題でEUがどのように考えているのか探っていく。

– パナマ運河の通行料値上げの影響等でソマリア沖の重要性が増す中で、海賊対策をアジア側で行うことが現実的なのか。逮捕した海賊の裁判はどのように行うのか等の問題が考えられる。

– 2016年ごろにはソマリア沖の海賊数も減ってきたのでEUも基地を撤退したいが、中国がソマリア沖に進出しようとしている可能性を考慮し中国に対してプレゼンスを示すために滞在しているのではないか。

 

コメント

現在の国際社会で各国の関係は特に複雑だと思います。一方、各国は経済の側面で相互依存していますが、一方、国際規則制定の権利を争っています。この様な依存と競争関係に関してEUの態度を明らかにするために、EUの報告だけではなく、この報告のきっかけとしての中国とEUの具体的な利益衝突、中国の考え、中国の対応、及び、この事件に対して他国の態度、他国の対応を研究しないといけないと思います。

 

株価のバブル判定

 

発表内容

 

  1. 日本の株式市場におけるシラーPERを用いた当該時点でのバブル判定

ノーベル経済学賞受賞者のロバート・シラー教授が考案したシラーPERは、株価の割高・割安を測る指標の一種で、過去10年間の1株あたり純利益の平均値をインフレ率で調整した実質純利益でPER(株価収益率)を計算する。アメリカ市場ではシラーPERが25を超えるとバブルの懸念があるとされている。シラーPERはアメリカ市場を対象とした指標であるが、日本市場においても機能するという仮説をたてて実際にデータを集めて分析を行った。日経平均とシラーPERの関係から考察すると、1990年代のバブル崩壊時及びリーマンショック時で連動した動きが見られるため、日本市場においてもシラーPERは株価の割安・割高を判断する有効な指標として働くといえる。また、日本市場の1980年から2018年までのシラーPERの平均値はおよそ50となっておりこれを基準値としてバブル判定の判断材料にできると考えられる。

 

  1. 第二次世界大戦期の日本の株式市場の実証研究

第二次世界大戦期の日本の株式市場の個別企業株価と取引出来高のデータを整理し出来高加重平均の株式指数を算出する研究を行った。第二次世界大戦中の日本軍の戦況の変化と当時の株価との相関を観察する。

 

質疑

– シラーPERの基準値のみで判定するだけではなく、分散制約検定、構造化モデリング、時系列分析といった統計的な手法・解析もあったほうがいい。

– 外れ値の扱いに関しては、バブルの状態が外れ値になりうるのでその可能性も考慮する必要がある。

– EUとの応用について、第二次世界大戦期にヨーロッパの株式(イギリス・ドイツ)との関連性もあると面白そう

– シラーPERの指標が50が高すぎるのではないか

 

コメント

その時代の社会的な出来事や国際関係、経済状況などたくさんの要因が株価を左右すると考えられるので、正確な株価の予測は困難だと思います。しかしながら、バブルかどうかの判定に関しては、たくさんの先行研究もあるので、質疑で挙げられたような統計的手法を用いてある程度の精度で予測することはできるのではないかと期待しています。