一橋大学

EUワークショップ 2020年6月3日 報告者コメント

2020年6月3日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EUワークショップ202063

法学研究科博士後期課程 吉本文

202063日にEUワークショップで報告させていただいた内容と質疑応答の様子を報告させていただきます。

CFSPの事件を審査するCJEUの裁判管轄権の限界」という題目の下、CFSPの事件を審査する裁判管轄権が認められた判決の判決理由を精査することで、判決理由が普遍性を持つのか、そして、今後のCFSPに関する事件を審査する裁判管轄権の拡大につながるのかについて考察しました。特に、法の支配/効果的司法的救済という判決理由は、裁判所の裁判管轄権を認める意図を表しているのかについて考察するために、法の支配/効果的司法的救済という判決理由が初めて使われたH事件判決に着目しました。

まず、H事件と比較するために、初めて裁判管轄権が認められたモーリシャス判決の判決理由を確認しました。モーリシャス判決では、解釈指針としてderogation論(CFSPに裁判管轄権が及ばないというのは例外であるから、狭く解釈すべしとの論)が示された後、具体的な審査において、本件で問題とされているのは、CFSPにも他の政策にも適用される国際協定締結手続上の義務違反の審査であるから、裁判管轄権が及ぶ、という構成で判決理由が提示されたことを確認しました。

次に、H事件判決では、モーリシャス判決のように、derogation論+他の政策にも適用される手続という理論を用いることができないため、「derogationEUの価値(平等+法の支配(効果的司法的救済))」という根拠づけがなされたことを示しました。また、その後の具体的検討を見ますと、「平等」という価値が提示される意味は理解できるものの、「法の支配/効果的司法的救済」という価値が提示される確定的な意味は、判決理由からはわかりませんでしたが、一審への応答と考えられうる可能性がある旨を次のように考えました。すなわち、一審では、第三者に法的効果を生じさせる行為を審査する裁判管轄権は認められるというSogelma事件の本件における先例性が議論され、一般裁判所は、Sogelma事件は法の支配が及ぶ共同体法秩序の事件であり、本件においては先例として採用できないと判断していました。司法裁判所は、CFSPも法の支配に規律されるということを示すために、法の支配という解釈指針を示した可能性があると報告しました。

質疑応答では、まず、松村さんより、効果的司法的救済のみをもって裁判管轄権を認めることはできないと判断されたKS事件では裁判管轄権を認める条件が示されたか問われ、示されていないと回答しました。次に、小笠原さんから、(1)モーリシャス事件でderogation論が提示された背景と、(2)裁判管轄権拡大の意義について問われました。第一の質問については、モーリシャス事件で争われた国際協定締結手続は、リスボン条約で敢えて218TFEUに一本化した手続きであり、218TFEU上の義務違反につき、協定がCFSPに関するものであるかそうではないのかに従って裁判管轄権の有無が異なるのは、こうした起草背景に沿わないという事情から、derogation論が示されたのではないかと回答しました。第二の質問については、以前に他の政策の裁判管轄権が法の支配を理由として認められてきたという背景から、CFSPの裁判管轄権も法の支配を根拠に拡大するという裁判所の姿勢が見られれば、欧州統合論へのインパクトがあるという意味で、裁判管轄権拡大には意義があると回答しました。また、熊本先生からは、(1)統治行為論に立つ判決は出ていないか、(2CFSPの権限は加盟国の裁量が残るようにするというEUの建付けに裁判管轄権拡大は反しないのか、という質問をいただきました。第一の質問については、事件自体が、他の政策との接点のある事件が提起されており、つまり、CFSPの中心部に関わるような事件が生じていないことから、統治行為論に踏み込んだ判決は出ていないが、類似の判決として事件が行政的であるか政治的であるかは裁判管轄権の有無の審査に影響しないことが明示されたH事件判決が挙げられると回答しました。第二の質問については、そもそもEUCFSPは烈度の低い外交安全保障政策であり、加盟国が権限の委譲に抵抗するような性質のものではないことから、裁判管轄権の拡大に加盟国が難色を示しているという事態は現時点では生じていないと回答しました。最後に、竹村先生より、「管轄権管轄権」の視点を入れた考察を提案いただきました。

なお、今回は初めてのオンライン報告でしたが、質疑応答が盛り上がり安心しました。