EUワークショップ 2020年6月3日 コメンテーターのコメント
2020年6月4日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EUワークショップ 2020年6月3日
コメンテーター:松村 一慶
発表者①川上さん:国際人道法と国際人権法の統合
国際人道法と国際人権法は元来分離していました。しかし、国際人権法の戦時適用や国際人道法の発展により並行適用が生じるようになり、補完論がとって変わりました。また、両法がいずれは収斂し統合される統合論が出てきています。川上さんは非司法的実務的要請を検証し、国際人道法の履行確保制度と戦後の国際的取り組みにおいて両法は相対化し、統合すると主張しています。
川上さんはジュネーヴ諸条約と第一追加議定書に基づく事実調査機関IHFFCへの調査要請が限定的に非国家主体や非国際的武力紛争にも開かれていることに着目しています。2015年に国境なき医師団(MSF)や2017年に欧州安全保障機構(OSCE)が調査要請をし、後者は調査が実際に行われました。以上の事例から、IHFFCが共通第3条に基づいて非国際的紛争にも限定的門戸は開かれているとしました。
筆者は、IHFFCは他の機関と独立しているので、その役割は他の機関と比べて限定的であるが、国際関係学の分野においても非国家主体というアクターや非国際的紛争が重要視されていることからも彼女の研究は重要であると感じました。
発表者②吉本さん:CFSPの事件を審査するCJEUの裁判管轄権の限界
EUは共通外交安全保障政策(CJSP)を定義し、実行する権限を持っています(TFEU2条4項)。そして欧州司法裁判所(CJEU)はCFSPを管轄する権限はないとされていました(TEU24条1項、TFEU275条)。しかし、CJEUは近年CFSP以外の範囲において問題となりうる場合、CFSPに関する事例でもCJEUが取り扱う事件が出てきています。
特に、モーリシャス事件(C-658/11)では、一般的にはあらゆる紛争に対して裁判管轄権は及び、CFSPに裁判管轄権が及ばないとするTEU24条1項、TFEU275条の条文はこの一般的な裁判管轄権が特別に及ばない例外(derogation)であるとしました。また、H事件では、CJEUが法の支配・効果的司法的救済という言葉を用いてCFSPも法の支配に服するという主張を示そうとしたのではないかと吉本さんは推測しました。一方、KS事件では効果的司法的救済のみを根拠にCFSPの裁判管轄件を認められないという判決が出ました。
質疑応答では、モーリシャス事件でderogation論が提示された背景と裁判管轄権拡大の意義の質問や、竹村先生から「管轄権-管轄権」を絡めた考察の提案がありました。
筆者は特殊な政策として扱われるCFSPが他の政策分野同様に裁判管轄権に入っていくことは欧州統合を進める上では好意的に受け止めることができると思いました。