EUワークショップ 2020年6月17日 報告者コメント
2020年6月18日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EUワークショップ2020/06/17
報告者:大塚美穂
今回の報告では「気候変動レジームにおける大国の責任と米中関係――パリ協定の観点から」と題して、主にリサーチクエスチョンと現時点での仮説の提示を行った。
本論の目的は、2015年に採択されたパリ協定の成立に焦点を当て、先行研究で指摘される米国と中国の二国間‘協調’関係はなぜ生じ、進展したのか、そしてどのような条件下で協調が可能になったのかを明らかにすることである。気候変動問題は1992年の国連気候変動枠組条約以降に国際社会全体で取り組むべきグローバルイシューと認識されてきた。その後1995年から開始された締約国会議(Conference of Parties; 以下COPと表記)においては実質的な炭素排出量などをもとに先進国と途上国の対立構造が顕在化してきた。例えば1997年に採択された京都議定書では、先進国と途上国の責任の差異化に対し、当時炭素排出が最大の米国が不参加を表明するなど、枠組みの効果に影響を及ぼした。ポスト京都の期間にもこの対立は特に米国と中国間の対立とも相まって国際交渉で顕著にみられた。他方で、現実的な気候変動の脅威や科学的な認知、気候変動対策への規範などの発展により米中間の関係に変化が起きていたのが、COP13からパリ協定が成立したCOP21までの期間である。本論は国際交渉における両大国の対立に反して、二国間で‘協調’と呼ぶことができるような関係が築かれていたことに注目する。したがって、リサーチクエスチョンは「なぜ米中両国は国際交渉の場で対立していたにも関わらず、二国間協調関係を形成してパリ協定成立に貢献したのか」と設定する。現時点での仮説はアリソンの政策決定論、特に組織過程モデル(第二モデル)や政府内政治過程モデル(第三モデル)を枠組みとし、両国内の政治体制、政策決定機関、手続き、文化、決定アクターなどに焦点を置いて今後研究を進めていく。
コメントでは法的拘束力など用語の定義、アリソンの政策決定論をどのように適応していくのか、EUの存在が米中の交渉にどのように関わっていたのかなどの点を指摘していただいた。特に先行研究を掘り下げて、アリソンのモデルと反する点に着目していくという指摘は自分自身の研究計画に対しても大変参考になるものであった。また、米中関係のみに囚われず、EUが環境という分野で果たしてきた規範的役割が米中関係に与えた影響など、より広範な気候変動レジームの視点から観察していく重要性も示していただき、研究をより豊かにする指摘であった。
今回の報告では研究の方向性を定めていく中で必要となる視点を多く共有していただき、大変参考になるものであった。ご指摘いただいた点を研究の指針とし、次回報告に向けて更なる考察と調査を進めていきたい。