一橋大学

EUワークショップ 2020年5月27日 コメンテーターのコメント

2020年5月28日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

2020/05/27 EUワークショップ コメンテーター:大塚美穂

2020527日に行われたEUワークショップの報告についてコメントさせていただきます。

報告1 (張叡さん)

張さんは「NPT体制の不平等性に関する研究:アフリカのウラン産出と核発電の視点からの分析」と題して発表しました。研究テーマは「核不拡散条約(NPT条約)における不平等性にも関わらず、非核兵器国が加入したのはなぜか」、そしてアフリカに焦点を当て、「アフリカ諸国はなぜ利益が得られないままに、NPT体制にとどまっているのか」です。発表ではウラン開発に絞って先行研究を紹介しました。ヨーロッパとの関係性については、ナミビアとイギリス、ニジェールとフランスにおけるウラン開発に関する従属的関係などの先行研究が示されました。

質疑応答では、EUワークショップのため、本研究とヨーロッパの関係性が問われました。また、ウランの産出国がアフリカ地域の中で限定されていることやNPTへの加入時期や状況の差異があるため、アフリカと一括りすべきか否かについての指摘がありました。さらにNPT体制における利益や規範性の定義についても質問がなされました。

筆者は張さんの研究について、国際関係理論を多角的に理解して全体と地域の対比が含まれている点が興味深いと考えました。NPT体制という全体論を論じながら、ウランの産出国が点在するアフリカに焦点を当てることで、特にアフリカとヨーロッパ間の歴史的従属の側面を明らかにしようという試みに張さんなりのオリジナリティを感じました。後期にも発表が行われる予定なので、NPT体制における利益をどのような視点から定義されるのか期待しています。

報告2 (上野貴彦さん)

上野さんは多様な人々の共生における課題に着目し、街ぐるみで偏見に対抗する戦略としてスペインで実施されている「反うわさ戦略」をテーマに研究されています。今報告は前学期に引き続き、スペインでご自身が行われたフィールドワークを基に発表されました。「反うわさの現場」がどのようになっているのかについてご自身が現地での集会への参加などを通して明らかにされました。その経験から①街ぐるみの実践、②各地に伝播、③都市間の積極的連携を反うわさ戦略の特徴として示されました。さら本報告では、日本とスペインでの実践の差異について、浜松市や神戸市の実践の様子も説明されました。

質疑応答では、欧州における移民政策の差異としてフランスの同化政策とスペインでの事例に関して問われました。また、共生の現場において宗教対立はないのかなどの質問が出ました。さらに、スペインの事例で重要な役割を果たした市役所のあり方や、反うわさ政策の実質的効果や目標はどのように測定するのかに関しても指摘されました。

筆者はスペインにおける反うわさ戦略の実践事例から、地域レベルのガバナンスが移民との共生に重要な役割を果たしていることを改めて感じました。移民を受け入れ共生していく場は、実際には限られた地域という空間です。このような観点から、本研究を通して明らかにされる知見が、今世紀の人的移動拡大によって今後も増加すると考えられる「移民との共生に関する社会的課題」に重要な示唆を与えると考えました。