一橋大学

EUワークショップ 2020年11月18日 コメンテーターのコメント

2020年11月20日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EUワークショップ20201118

コメンテーター:小笠原宏輝

報告者:松村一慶さん「冷戦期における米ソのトリエステとオーストリアをめぐる交渉」

現在は研究テーマを再考されているとのことで、今回の発表は問題意識と研究の方向性についてでした。

はじめに研究対象の候補として挙がっているオーストリアとイタリア北東部の都市トリエステについて説明がありました。松村さんの問題意識としては、トリエステとオーストリアがともに戦後軍事占領されたにもかかわらず1950年代半ばに東西間でうまく領土問題等が解決されたのはなぜなのか、という点にあるそうです。その後に先行研究にも触れられ、とりわけトリエステをめぐる米ソ交渉の過程を研究することの学問的意義を強調されました。

松村さんの発表に対する質問・コメントとしては、地域(トリエステ)と国家(オーストリア)という異なるレベルのものを比較すべきなのか、すべきだとしてなぜなのかといったものや、どういう切り口から研究し、どのような新規性をもたらすのかといったものがありました。

私は歴史研究について精通していないこともあり、今回の発表は非常に新鮮なものでした。法学とはまた異なる研究手法・切り口を知ることができ、とても刺激になりました。今後の発表では松村さんの研究の方向性がさらに明確化され、より詳細な議論が展開されていくことと思います。非常に楽しみです。

報告者:大國眞輝さん「多次元的貧困と健康の関係性」

今回は「多次元的貧困と健康の関係性」というテーマのもとで、リサーチクエスチョンや方法論について説明されていました。やや専門的な用語もありましたが、全体的には論理展開が明快で非常にわかりやすい発表でした。

「多次元的な貧困状態を測定し、健康に対して与える影響と、その影響を媒介している変数の媒介効果を推定する」というのが大國さんの研究の主題です。前半ではまず「貧困」をどのように定義し、どのような指標を用いて分析するかという点が丁寧に紹介され、その後貧困の多次元性をどのように捉えるかという点についても説明がなされました。

後半では先行研究の整理とその課題の特定がなされ、そこから導かれるリサーチクエスチョン、具体的に使用するデータ・分析方法についてもお話がありました。最後は今後の研究上の課題を指摘して発表を終えられました。

大國さんに対する質問・コメントとしては、「健康」の定義とその測定方法はどうするのか、媒介変数を用いる意図は何か、といったものがありました。その他には論文の新規性、国際比較の必要性といった点についても指摘がありました。

私はそれほど経済学に詳しくありませんが、それでも大國さんの発表では研究の目的と手段の一貫性があり、問題点も網羅的にカバーされていたように感じました。また私自身も例えば国家実行や法的信念をどのように「定量的に」評価するかといった点に悩んでいたこともあり、大國さんの「健康」や「貧困」の測定方法に関するお話はとても興味深いものでした。次回の発表も楽しみにしております。