一橋大学

EUワークショップ 2020年1月8日 コメンテーターのコメント

2020年1月15日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EU域内移住者のトランスナショナリズムと社会的境界の再編

――都市レベルでの社会統合政策とルーマニア系住民の関係について――

 

プレゼンテーター:上野貴彦さん    

コメンテーター:大塚美穂

 

今回の発表では、上野さんが20194月〜12月まで行ったスペインでのフィールドワークの発見点と、欧州における多様な移住の在り方に関する多文化主義モデルと同化主義モデルをふまえ、その折衷案となる間文化主義理念の特徴を有するスペインの事例を挙げて考察を行った。

この考察で上野さんが着目したのが、スペインの都市における間文化主義政策とその構築をめぐる問題を考える上で鍵となる「反うわさ」の事例である。これは2010年にスペイン・カタルーニャ自治州のバルセロナ市が開始した政策で、偏見やステレオタイプに基づく、国際移民に関する人々の否定的な認識に基づく発言をひろく「うわさrumors 」ととらえ、それを頭ごなしに否定するのではなく、住民参加型の講習会や教材作成、演劇など多様な手法を用いた住民間の対話を通じて移民をめぐる社会的な認識転換を図る試みとして欧州内外でひろく注目されいる。

上野さんはもっと主対象的な条件下で、同一の帰結に至った事例の比較を行う都市類型分析を用いて、サンタコ(バルセロナ都市圏)とゲチョ(ビルバオ都市圏)の二つの都市を比較し、その結果以下の発見点を示した。第一に「二都市圏のガバナンス構造の違いと、移民出身者によるトランスナショナルな社会空間のあり方の関係」、第二に「包括的にみえる政策が生み出す排除」である。

報告後には幾つかの質疑応答が行われた。例えば、反うわさとして特定のうわさに焦点を当てることがむしろうわさの固定化につながるのではないかなどの質疑である。その上でコメンテーターが関心をもった点は、欧州の事例を通した日本に対する提言である。昨今の外国人労働者受け入れの議論は日本における移民の在り方の再考にも通ずるものであり、今回の発表を通して示された発見点から上野さんがどのように考えているのか関心を持ったためである。これに対し上野さんは、日本においては都市レベルと地域レベルでの「移民」の認識が違い、その格差も大きいことを端的に指摘した。つまり国家が受け入れたいと考える移民と、実際に地域に根付いていく移民は必ずしも同じ定義のもとに存在しているわけではないということである。したがって欧州でのベストプラクティスを容易に日本に輸入するということは難しく、このような認識の差異に対処したことにはならないということである。今後とも上野さんの研究によって、都市レベルでの移民の在り方に関する議論が蓄積され、より良い政策が模索されていくことに期待している。