一橋大学

2022年5月25日 EUワークショップ コメンテーター三浦さんのコメント

2022年6月1日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

コメント:社会学研究科修士一年 三浦夏美

一つ目の発表は、松村一慶さんの「オーストリア冷戦史研究の現在」です。オーストリアが第二次世界大戦後~冷戦に至る時期に、独立する上で中立政策を採用した経緯をアメリカ・ソ連の動きに着目しながら考察する研究です。

中西先生は、現代における国際社会状況と関連付けて、ロシア・ウクライナの戦争を受けてスウェーデンやスイスがNATOに接近した事例を参照しながら、オーストリアの中立政策は今後どのような変化が予想されるのかという質問をされました。この質問に対して、現代オーストリアにおいては、中立政策は一種の国家アイデンティティになっており、また、中立であるという立場のもと、交渉の場を提供するなどと、国際関係における振る舞いも中立政策に規定されているため、転換の可能性は低いという回答でした。

熊本先生は、この研究が米ソの駆け引きに視点を置いて分析していることを踏まえて、オーストリア自身のイニシアティブについて質問されました。

秋山先生は、オーストリアの中立に特有の特徴について意識的になることの重要さについてコメントされました。オーストリアの中立においては、ドイツとの問題が深く関わってきます。第二次世界短戦後の占領時のオーストリアは、まだドイツとの分離が確定しておらず、中立国家として独自の立ち位置を獲得することが、国内的にも対外的にも、オーストリアはドイツとは違うということを示していくうえで重要な時期であった。オーストリアにとって、ドイツとの関わり方は根幹的な問題であるため、冷戦開始時期と中立化を考える上で、ドイツとの関係に踏み込んでいくことで、問いがよりはっきりするとのご指摘でした。

 

二つ目の発表は、張 婷さんの「ロココ時代における女性像についての考察―女性の社会と経済における役割を分析する」でした。ロココ文化が女性の社会進出に与えた影響について分析する研究です。宮廷の流行が下層階級まで広がり模倣されることで服飾の需要が急増し、この生産過程に女性労働力が組み込まれていったという研究です。

熊本先生は、この研究で説明したい社会経済現象は18世紀フランスで女性が労働市場にでたということであるかを確認された上で、データを用いて証明することの難しさについて触れられました。

ワークショップ参加者からも質問が多く挙げられ、貴族の女性たちが与えた影響や、現在に与える示唆、市民と労働者をどのように区別しているのか、本当に市民は模倣による個人消費をするほど裕福であったのかといった議論がされました。

秋山先生は、18世紀の出来事であるため、現在における経済のモデルと同じような証明をしようとするとデータ不足に陥ることを指摘した上で、因果関係の証明や現在の経済のモデル構築ではなく、状況を説明していくことによる研究の進め方についてコメントされました。また、男女を区別することについて、現代的な経済のモデルを適用するのは厳しいのではないかと指摘されました。