一橋大学

2017年1月11日 EUワークショップ報告者コメント

2017年2月25日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程

石井雅浩

2017111日のEUワークショップにおいて「エネルギー政策のレベルと意思決定過程」と題した研究報告を行った。今回の報告では、EUのエネルギー政策の策定について、暫定的に①戦略立案レベル、②立法行為レベル、③政策実行レベルの3つのレベルから、①エネルギー同盟政策、②IGA決定、③PCI3事例を取り上げ、EUのエネルギー政策の意思決定に関わるアクターとその役割を各レベルで検討した。

1.戦略立案レベル

戦略立案レベルの主たるアクターとして欧州理事会、理事会及び欧州委員会を挙げた。意思決定は、主に欧州理事会が理事会及び欧州委員会に対し要請し、それを受けて戦略などが策定、報告され、最終的に欧州理事会が報告内容について合意を与え、EUとしての政策の方向性が示される形をとる。報告では、具体例としてエネルギー同盟政策に関連する欧州理事会を中心とする意思決定の流れを概観し、この意思決定過程が機能していることを示した。その際、欧州理事会が具体的な政治方針や優先順位の策定に関与しており、加盟国政府はそれらに影響力を行使することが可能であることを提起した。

2.立法行為レベル

立法行為レベルでの主たるアクターとしては、欧州委員会、(閣僚)理事会、欧州議会が想定される。報告では、政府間協定に関する情報交換メカニズム決定(IGA決定)を具体例として検討した。IGA決定とは、「域内エネルギー市場の操業(operation)や機能(functioning),もしくは連合の供給の安全保障,に対し影響を有する一つ以上の加盟国と一つ以上の第三国とを法的に拘束する協定」を欧州委員会へ報告することを加盟国に課す決定である。同決定に関する評価書が20162月に作成され、「効果的ではない」と評価されたことを受けて、欧州委員会はIGA決定の改正案を作成した。同改正案は、現在通常立法手続きに掛けられている。同改正案の審議過程から、委員会は、本決定の修正案でも権限を可能な限り拡大することを目論んでいること、他方で、理事会での1次読会では、加盟国の立場は別れておりEUへの権限移譲に対し抵抗する諸国が委員会案を最低限の措置へと調整することに成功していることを確認した。

3.政策実行のレベル

政策実行レベルでは、政策ごとに主なアクターは異なってくる。そこで本報告ではエネルギー・インフラ政策に関わるアクターとして、委員会、加盟国、事業主体を検討した。EU2013年にエネルギー・インフラの整備を加速するため,ネットワーク開発10カ年計画(TYNDP)に記載されるインフラ計画をさらに厳選する形でEUの優先的なインフラ計画としての優先ステータスを付与するPCIs (Projects of Common Interest)を設け、ガス分野では4回廊として西欧(NSI-West),中東・南東欧(NSI-East),南回廊(SGC),バルト海地域(BEMIP)を設定し,インフラ整備の強化を打ち出している。PCIs選定プロセスでは,関係国,関係国規制機関(NRA),送電系統運用者(TSO),ENTSO-EENTSO-GACER,欧州委員会の各代表らから構成される地域グループが地域リストを作成し、関係加盟国の承認と欧州委員会による助言を経て,欧州委員会がUnion Listとして公表する。

本政策では、事業計画者によるTYNDPへの事業の申請が前提となっており、第一義的には事業者の役割が重要となる。他方で、選定においては、関係国の意思も重要な要素であり、関係国による承認がなければ地域リストから除外される可能性があることは明らかである。加えて、各国の規制当局や運用当局がリスト作成に関与しているという点も重要な点として指摘できる。最後に、欧州委員会は地域リスト作成に直接関与するとともに、地域間調整を進め最終リストを決定する重要なアクターといえる。このように、本報告では各アクターの役割を整理できることを確認した。

以上の報告に対する質疑応答に際し、先生方並びに参加者から有益なコメントを頂いた。3つのレベルに分ける重要性とレベル間の関係について、コメントから重要な示唆を得ることができた。今後の検討課題として提示した諸点について、継続して研究を進めていきたい。