報告者コメント 2016年6月15日
2016年7月3日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
欧州議会における極右勢力の台頭―フランスの「国民戦線」を例に―
社会学研究科 総合社会科学専攻 修士課程1年
奈良詩織
欧州議会選挙において極右政党は、1984年にフランスの「国民戦線(Front National: FN)」が高い得票率(11%)を記録して以来、その勢力を拡大し続けているおり、2014年の選挙では大躍進を遂げた。近年の極右政党の内実は非常に多様であり、なかには、「ネオ・ナチズム」や「ネオ・ファシズム」という言葉では形容できない「新右翼」とも呼ばれる勢力も存在する。本報告では、欧州議会選挙における極右政党の躍進とその背景を分析した後、「新右翼」の代表例でもあるFNの特徴から、現代の極右政党の性格を考察した。
2014年5月に行われた欧州議会選挙では、欧州議会の主要会派が票を減らす一方で、反EU・反移民を唱える極右勢力が大幅に議席を増やし、その獲得議席数は、前回(2009年)の2倍以上となる140議席台に達した。また、フランスのFN、イギリスの「イギリス独立党(UK Independence Party: UKIP)」、デンマークの「デンマーク人民党(Dansk Folkeparti: DF)」が、各国で第1党となった。
その原因として、以下のようなことが考えられる。
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欧州各国の政府が近年の経済危機に対して有効な対策を講じることができなかったことへの国民の失望から極右勢力に票が流れた
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欧州議会選挙は比例代表制度で行われるため、小選挙区制では勝算の少ない中小政党にも有利である
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特に西欧において、国政に影響を及ぼすわけではない欧州議会選挙は、国政への評価として利用されやすく、欧州議会選挙の実施時期が与党の任期の中間にあたる国では与党の得票率が低くなる
また、FNの性格から考察される、近年新たに登場した「新右翼」は、以下のような特徴を持つ。
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従来の暴力主義的なイメージからの転換、民主主義のルールの受容
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グローバリゼーション批判、福祉政策への取り組み
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普遍的価値に訴える主張(「急進右翼」化)
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カリスマ的党首の存在と党首を中心とした集権的組織構造
以上は、FNに代表される近年新たに出現した極右勢力の特徴であるが、こうした特徴に当てはまらないネオナチ政党や、ギリシャやアイルランドへの財政支援への反発を背景に台頭した政党など、実に多様である。こうした相違のために、極右勢力は欧州議会で統一の会派を形成することを嫌う傾向がある。2014年の欧州議会選挙で議席を獲得した極右勢力は、欧州懐疑派の「欧州保守改革グループ(European Conservatives and Reformists: ECR)」(70議席)、国民保守主義系の「自由と直接民主主義のヨーロッパ(Europe of Freedom and Direct Democracy Group: EFDD)」(48議席)、「無所属(NI)」(52議席)に分裂した。さらに、NIに分類されていたFNの党首M.ルペン(Marine Le Pen, 1968-)は、2015年6月16日に、新会派「国家と自由の欧州(Europe of Nations and Freedom: ENP)」を結成することを宣言した。
以上、本報告では、2014年の欧州議会選挙における極右勢力の躍進の背景の分析と近年新たに出現した極右勢力の特徴をまとめた。今後は、この分析内容を自分の本来の研究(フランスの移民と政治)に取り入れていく予定である。