一橋大学

EU条約の翻訳(Translation of EU Treaty)

2014年3月8日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EU条約とEU運営条約は、EUの「憲法」とも言われる。EU条約及びEU運営条約の言語は、すべての構成国の公用語となっている。フランス語、ドイツ語、英語といった主要な言語のみならず、ラトビア語、スロベニア語、ギリシャ語なども等しく正式の言語となっている。ただ、日本はEUに加盟していないので(加盟国はヨーロッパの国に限定されている)、日本語は公用語ではない。

国際条約集(有斐閣)を見ると、EU条約及びEU運営条約の日本語版が載っている。これは、翻訳であり、また外務省の公定訳でもない。条約集には、有斐閣からでているものだけではなく、他の出版社からでているものもあり、その訳語は必ずしも同じではない。

私は縁があって、リスボン条約が2009年12月1日に発効し、大幅にEU条約等が改正されるにあたって、有斐閣から出されている国際条約集の下訳を頼まれる機会に恵まれた。下訳は、そのまま活字になるわけではなく、複数の編集委員の先生方が綿密にチェックされ、推敲されることになる。私は、先生方がチェックされた原稿を見る機会があったが、1文、1文、1語、1語に必要に応じ赤字が入っていた。その仕事の真摯さに驚いた。

EU法で用いられる専門用語は研究者によって訳が異なっていることがある。私は、できる限り混乱を避けるために、すでに定着している用語については、それらを用い、新しい概念のときは自分で訳語を考えるようにしている。たとえば、EU運営条約は、The Treaty on  the Functioning of the European Union(Vertrag ueber die Arbeitsweise der Europaeischen Union, Traite sur le fonctionnement de l’Union europeenne)の訳であるが、最初に訳した時は、その条約内容から「EU政策運営条約」としていた。ただ、その訳語は浸透しなかったので、現在は主にEU運営条約(中村民雄先生の訳)、場合によってはEU機能条約(庄司克宏先生の訳)の語を用いている。

また、条約集には、それぞれの条文に見出しがついているが、実際の条約にはこのような見出しはない。これは、出版社が読者の便宜のためにつけているものである。私も下訳のときに、それぞれの条文を読み、その中身を一言で表せるように見出しを作成した。こだわった見出しは、たとえば、EU運営条約344条の「自己完結性」である。そんなところにも注意して、EU条約・EU運営条約を読んでみてほしい。

EU法の授業では、EU条約及びEU運営条約の条文は必需品である。条約集は、民法などの法律科目を学ぶときの六法にあたる。より深くEU法を勉強しようと考えたら、EUの公用語の原文で読むとよいだろう。

Japanese is not an official language of the European Union. We can read the text of the Treaty on the European Union and the Treaty on the Functioning of the European Union in Japanese. The Japanese text is not authentic, but a translation. Some publishers publish Japenese text versions. I was asked to translate the text of the Treaty of Lisbon into Japanese by the publisher, Yukikaku which is a famous and reliable publisher in the field of law. I was very glad to have such an opportunity and did my best. I compared English, German and French versions and then made Japanese text. The translation was checked by several people. The work was decent.