一橋大学

EUワークショップの学生コメンテーター(1)

2014年5月7日lawit

こんにちは、社会学研究科修士二年の横越建城と申します。今回は掲題にあるようにM1ワークショップ報告のコメント担当者として、つたない文章ではありますがワークショップの様子をお伝えしたいと思います。

前期日程も始まって早一か月が経ち、今年度のEUワークショップも既に本格始動しています。先日、報告の第一回目として昨年と同様、新たにワークショップに加わった修士課程一年生の参加者によるプログラム課題の企画書報告が行われました。

今回の報告は以下の二本。

岡田さん

「アイデンティティー形成における言語イデオロギーの役割の比較分析
―マイノリティグループなどの小規模共同体の使用言語状況の比較より―」

上野さん

「後発ユーロリージョンにおける戦後のシティズンシップ形成
―アルザスと南チロルの比較から―」

お二人とも自身の修士課程でのテーマを、EUプログラム上で展開・拡張する形で企画を練ってきています。

詳しい内容については報告者自身によるブログ記事にお任せするとして、ここではそれぞれの報告で議論となった論点やコメントなどをまとめつつ、自分なりの感想を加えていく形式でレビューしてみたいと思います。

岡田さんの企画書の論旨は、理論として集団の内的アイデンティティーは、「心の習慣」とそれを形作る言語の習慣的使用によって形成されるものであると措定し、米英日のマイノリティ論と各国の言語政策との相関を探ろうとするものでした。

彼はまず理論の部分でWhorfなどの言語相対説を前提に、言語政策とマイノリティへの社会学的分析からケーススタディを行おうという方針を提示しましたが、これに対し英をEUの文脈でどう考えるのか、また個別研究においてどのように実地調査レベルのデータを収集するのかといった課題も指摘されました。しかし、各国の政策を言語による集団形成から分析しようという視点は、特にEUという研究分野で注視されるべきものであり、彼の堅固な理論整理に基づく仮説の論証は今後あらゆる地域研究で必要となってくる重要なものとなるでしょう。具体的な調査を、政策レベルではなく、そこで実践される帰化申請での言語能力基準や、言語試験等の詳細にまで踏み込んで行うべきといった意見もあったように、子細な実践状況を論証過程で示すことにより、「心の習慣」とマイノリティ論との議論も深まっていくことと思います。

上野さんの企画書では、境界地域におけるユーロリージョンという視点から、地域共同体内で醸成される「シティズンシップ」への議論を試みようとされていました。とりわけ彼の優れた着目要素は、国境地域付近の地域共同体がEUによるユーロリージョン推進によってその境界としての特性が絶えず再生産されている現象に着目している点、そして、EU地域研究の上で積極的にこうした地方の地域共同体レベルから地域協力を捉えようとしている点にあると思われます。

こうした上野さんの企画書に対し、ユーロリージョンの議論を「EUと地域」だけでなく「国家と地域」の位相から取り組む必要があるのではないか、またユーロリージョン全般の議論整理を最優先で行うべきなどのコメントが寄せられました。中でも議論となったのが、やはり岡田さんの場合と同じく、どういった学問分野でどこの地域に着目することが、この議論を展開する上で最適かという点です。上野さんがサブタイトルであげたアルザスと南チロルに加え、彼が同じく関心を寄せる「南欧」という概念地域では、現国境/旧国境/文化的境界/言語的境界/EU政策適応地域としての境界線など、通常の地域研究以上の複合的な視点が必要とされるでしょう。幸いにもワークショップには四つの研究科からそれぞれ先生が同時参加されています。研究手法を探るに事欠かない環境でしょう。

また手法と同時に、地方共同体の持つ社会的集合力・求心性と、ユーロリージョンの持つ共同体概念の拡散性(当然逆も然り)の両者を上手く取り扱っていける対象を見つけることも課題となっていくでしょう(オーストリア史を学ぶ私としては是非ティロールをやってほしいのですが笑)。

こうしてお二人の企画書を振り返ってみると、両報告からは「ここを議論してほしい」、「この点に関して助言を求めている」といった本ワークショップへの貪欲な姿勢が伝わってきます。今後の報告や議論を通して、プログラム参加者同士お互いの学びを刺激しあうことで、こうした新参加者の期待に答えていけたらと思います。