2024年11月13日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
コメンテーター:熊坂健太(国際・公共政策大学院修士2年)
2024年11月6日の水曜日4限に「EUワークショップ」が実施され、社会学研究科博士課程1年の劉さんと国際・公共政策大学院修士課程1年の新見さんが研究報告をされました。
まず、劉さんは『アイルランド共和国におけるアイルランド語状況の再考ー言語政策と教育政策を通してのいち考察』と題して、言語計画と言語教育に焦点を当てアイルランドの多言語状況を分析しました。劉さんは、例えばナショナル・アイデンティティ形成のための言語を標準化する必要性を指摘したEinar Haugenや多言語の数式化を試みたCharles Fergusonの先行研究を取り上げ、アイルランドの言語政策を如何ように形成していくべきかの示唆を提示しました。
大月教授は、世代間による言語アイデンティティの相違や、アイルランドの放送状況を踏まえ少数言語に対するリスペクトがどの程度普遍化されているかなどについて着眼点を提示しました。また国家による言語政策だけでなく、市民社会による改革運動などの有無についても考察する必要性も質疑応答の中で指摘されました。
次に、新見さんは『ドイツの移民・難民政策において、安全保障と受け入れ政策のバランスはどのように取っていくべきか』と題して、ドイツが抱える移民や難民を受け入れる人道的義務とそれによって引き起こされる安全保障の課題をどのように政策の中で調整を取ってきたかを、歴史のなかで振り返り説明しました。新見さんは、移民・難民が安全保障上の課題になる一方で、労働市場の維持と経済成長を支える側面を持ち合わせていることを指摘し、またドイツの政策が他の欧州諸国に影響を与え得ることからも重要な問題意識であると述べました。
中西教授はEUが持つ権限について説明し、移民と難民を区別して考える必要性や、例えば庇護政策でドイツがどのような言及をしているかについて分析することを提案されました。また発表中に言及された「ドイツ政府」という括りを各政党のマニフェストなどまで解像度を上げ、それらが連立するなかでどのような変化を政策に与えるかについて分析するなど、「政策評価」としての論文を執筆する方法を提案しました。