一橋大学

EUワークショップ 2019年6月19日 コメンテーター

2019年6月28日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程2年 氏名:鈴木海斗

 

以下では、2019619日に行われました、EUワークショップにおける発表に関して、報告を行います。

 

 

一人目の報告者は、社会学研究科修士1年の小原敏幸さんです。小原さんは、修士論文の一部を構成するものとして、「EUの庇護に関連する政策から検討する難民受け入れの責任分担システム―ダブリン・システムと再入国協定の視座から―」というテーマで報告されました。報告では、EUにおける難民の受け入れの枠組として、ダブリン・システムと再入国協定を取り上げ、その責任配分における問題点を、国家レベルでの問題ではなく、都市レベルで分析されるべきものであるという立場が示されました。

 

小原さんは、ダブリン・システムと再入国協定を、それぞれ、EU圏の外周上に位置する国家とEU圏外の周囲に位置する国家に対して難民の受け入れを強いる制度であるとして批判し、これは特に、現状にシステムが適応できていないという形で問題となっているとしています。このような現状に鑑みて、小原さんは、難民受け入れにおいて、国レベルの受け入れ数値のみを参照するだけでは現実に即した分析を行うことはできないのではないかとしています。そして、難民受け入れ審査が実際になされている地方都市における受け入れの実態を概観することによって、受け入れの可能性を考察することが出来るのではないかとしています。

 

そして、最終的には、修士論文において、ダブリン・システムが機能していないという立場を示しているフランスのナント市を事例として取り上げることによって、地方レベルでの調査と国際システムの現状を照らし合わせることを目的としています。

 

 

二人目の報告者は、国際教協政策大学院グローバル・ガバナンスプログラム1年の張睿さんです。張さんは、「北朝鮮の核危機における米中朝の三者間ゲーム」というテーマで報告を行いました。報告では、北朝鮮における核問題の解決に向けて、従来の先行研究における分析枠組ではその現状を正確に捉えきれていないことを問題視し、米中・米朝といった従来の二者間構造ではなく、三者間の戦略的ゲームの構造として北朝鮮問題を捉えることの必要性が説かれています。

 

張さんは、まず、アメリカの核戦略において、北東アジアが重視されていることを指摘しています。そして、アメリカと中国の核戦略を比較し、前者が核に先制使用の可能性を示唆しているのに対して、後者が、原則として、あくまで核攻撃を行うときは、相手に先に攻撃された場合のみとしていることを対照させています。その中で、互いに戦略的な方向性が異なる事やその方向性自体が曖昧化する中で、互いに衝突を回避しようとすることによって、むしろ軍備競争に陥っているという事実を指摘し、二者間での紛争の回避が喫緊の課題となっていることに留意されます。

 

そして、以上のような問題点に鑑みて、二者間での安定した核戦略の持続のためには、北朝鮮の核戦略の目的が考慮に入れられる必要があるとしています。その上で、ゲーム理論からのアプローチとして、三者間の囚人のジレンマ、三者間の交渉モデル、複数プレイヤーによるナッシュ均衡解の導出、非協力ゲームのトライアド・コンフリクトなどを挙げています。