一橋大学

EUワークショップ 2019年5月23日 コメンテーターのコメント

2019年5月24日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

EUワークショップ

 

2019/05/22

 

報告者二名:吉本文 鈴木海斗

 

コメンテイター 小原敏幸

 

一人目の報告者:吉本文

 

テーマ:EUの共通外交安全保障政策(Common Foreign and Security PolicyCFSP))の変容 ―EU司法裁判所の管轄権―

 

本報告では、International(国家間的)な法秩序を持っており一般的に裁判管轄権の及ばないとされるEUの共通安全保障政策(CFSP)の変容がテーマとなっている。そこで、CFSPにはEUの裁判管轄権が及ばない根拠としてEU条約第24条第1項第2段とEU運営条約第275条の大きく二つの条文が挙げられている。しかし、吉本の関心は特に後者の条文の原則が狭く解釈されることやCFSP以外の政策と同じ手続きが適用されるなどの理由からこれまでにCFSPに関する事項に対しても裁判管轄権が認められた判決があった点にある。その事例として⑴モーリシャスへの海賊引渡協定事件判決、⑵コソボミッションのヘリコプター調達事件判決、⑶ボスニア・ヘルツェゴヴィナミッションの人事異動事件判決の三つを取り上げている。このようにしてCommunitarised法秩序が採用する手続きがCFSPの法秩序でも採用されていることやその手続きにCommunitarisedな要素があることは、CFSPに裁判管轄権を及ぼす根拠として正当なのかという問題点を提起するに至った。今後の課題として、CFSP法秩序とCommunitarised法秩序の曖昧性を例証していくことを掲げている。

 

 

二人目の報告者:鈴木海斗

 

テーマ:少数民族の権利保護と実質的差別の禁止原則の関連

 

本報告では、国際法上において差別の禁止原則における民族的少数者の保護が集団としての権利保護へと発展していった過程について言及されている。第一部のところでは、差別の禁止の原則が広く民主主義国家や国際法において明示されていることを示している(日本国憲法第14条1項、国連憲章第1条3項、アフリカ憲章第2条や米州人権条約第1条1項など)。そしてEUに関してはEU条約第2条やEU運営条約第10条、欧州人権条約(ECHR)、さらには欧州審議会(CoE)についてその内容を含めて細かく言及されている。第二部では国際法上において形式的平等を貫徹することで副次的に差別が押し付けられているという点から実質的差別に対する「特別な措置」の導入について述べられている。最後の欧州少数民族保護枠組条約(FCNM)に関するところでは、第4条の解釈適用によって民族的少数者に対しての優先的な取り扱いが明示されている。そこで、実質的差別の禁止原則がついには「特別な措置」にとどまらない民族的少数者の集団としての固有の権利や利益の保護とされているのではないかという点を鈴木は指摘している。今後の課題として普遍的/国際的機関の比較検討を行うことが掲げられている。