一橋大学

EUワークショップ 2017年6月21日 コメンテーター報告

2017年7月6日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

社会学研究科修士1年 髙橋和浩

 

 

今回は、621日のEUワークショップにて行われた、石井さん報告「持続可能なエネルギー安全保障パッケージ」に関する考察:2017IGA決定を中心に」と、吉本さん報告「水平的整合性に関する一考察 欧州司法裁判所による理解に着目して」について報告させていただく。

 

 

石井さんの報告は、EU加盟諸国にとって戦略的に重要なエネルギー資源である、ガス、石油に関する域外第三国との契約についての「IGA決定」を通して、エネルギー対外関係においてどのようなアクターが働いているのかを考察する事例研究であった。そして、EUによる統一したエネルギー政策案から、EU機関の対外行動「強化」と「抑制」という論理を引き出し、政策案に対する加盟国の抵抗もしくは無抵抗が「妥協」や「現状維持」するまでの多様なアクターの活動(今回はとりわけ理事会、政府間での)を分析した。

 

秋山先生、大月先生の指摘のように、これらの超国家的機関と国家利益の相克はより多様なアクター、反応の分析が必要で、さらには資料の言語的な制約の問題が伴う。

 

歴史家である両教授と同じく、私も歴史的関心から、超国家的な権力と国家(近世における拡張する国家権力とミクロな地域)の利益追求の相克は興味深く思う。石井さんの研究の進展はヨーロッパの歴史上の政治権力の性質にかかわってくる問題となるかもしれない。

 

 

吉本さんの報告は、二つの判決の比較を通して、EUが拡大深化する上で不可避である複数のEU機関で相互の政策領域が重なり合う際の「整合性」に関する考察であった。吉本さんの挙げられた、最初の判決、2008年の軽小火器事件判決の焦点は、アフリカへの支援をめぐる欧州委員会と理事会権限下のCFSPの政策重複であった。判旨としては、理事会決定及び共同行動がEU条約条文に違反しているというものであった。欧州裁判所は二次法において問題となった共同行動が対処しようとした脅威が発展協力にも関係するとされていたこと、理事会と欧州委員会の「整合性」を確保することを判決理由としていた。ここから、欧州理事会の権限縮小の懸念から理事会は二次法に整合性に関する文言を盛り込むことを避けるようになった。一方、二つ目の判決、2010年のタンザニア事件判決では、整合性に関して二次法への言及を避けてきた理事会の主張が退けられた。「整合性」には新たな役割として条文解釈の手段が付与された。

 

「整合性」に関して大月先生が指摘なさったように、訳語上、どのような定義を与えるのかというという問題がある。今後はマクロン氏の政策などで共同防衛が議論の的になり、少なからずCFSPの機能が問われる場面が増える。それゆえ、訳語の定義も固まるのではないだろうか。