一橋大学

5月24日のEUワークショップ・コメンテーター報告

2017年6月1日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科博士課程の菅沼と申します。5月24日(水)のEUワークショップで行われた2本の研究報告の概要について紹介いたします。1本目は法学研究科博士課程の本庄萌さんの「動物法の理論と個別的な動物福祉法の分析」、2本目は法学研究科博士課程の川上愛さんの「武力紛争法と国際人権法の交錯と調和(仮)」です。

 

 

本庄さんの今回の報告は、これまで本庄さんが行ってきたEUの個別的な動物福祉法の背景となる基礎理論の考察を試みたものです。

 

本庄さんは動物法の理論的検討としてここでは、①動物の権利論と②動物福祉論を採り上げました。①の動物の権利論については、ドナルドソン&キムリッカの見解に着目し、動物の権利論の新たなアプローチとして(動物への)市民権付与論を検討されました。多文化主義の代表的論者であるキムリッカが人と動物の関係をいかに描き出すかという点について、ワークショップ参加者からの質問も相次ぎました。個別法とのつき合わせの検討の場面では、EUの畜産動物保護の歩みの評価をめぐって、EU法・国際法の観点から質問が寄せられました。基礎理論の考察をふまえて、EUの畜産動物福祉法、実験動物福祉法の特徴への理解を深め、理論と実践を架橋する研究への足掛かりを得ることを試みた今回の本庄さんの研究は、日本においてAnimal Welfareの概念の再検討を促すもので、法学にとどまらず、様々な立場から動物に関心を寄せる人々の問題関心に応えるものであると思います。

 

実践の面についても、本庄さんは世界各地のアニマルシェルターに足を運び、考察を加えています。本庄さんのアニマルシェルターについての著書『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった』(ダイヤモンド社・2017年)は、下記のウェブページで詳しく紹介されています(http://diamond.jp/articles/-/129166)。

 

 

川上さんは、修士論文「国際人道法と国際人権法の調和に向けて―法体系間の交錯と両法の抵触・併用の処理理論―」をふまえて、博士論文の構想を報告されました。

 

川上さんは修士論文において、国際人道法と国際人権法の関係をその歴史、両法に関係する理論、適用範囲、裁判例などから多角的に捉え、なおかつ、法体系間の交錯として捉えることで統合的な視野で両法の関係を明らかにしました。博士論文では、武力行使が「敵対行為(国際人道法)なのか法執行活動(国際人権法)なのかという状況判断」が誰によって、どのように、どの要素から判断されるのかという点を検討し、武力紛争法(jus in bello〔国際人道法〕とjus ad bellum〔開戦法規〕の二つを含む、戦時に適用される国際法規)と国際人権法の関係を整理することを目指しているそうです。今回の報告では、博士論文で新たに取り組みたい課題として、「戦後賠償」と「警察の軍事化と国内犯罪者に対する軍事作戦」の議論が紹介されました。警察と軍の境界線をめぐる検討は、博士課程を通じて、さらにいっそう深まっていくものと思われます。修士論文において、国際人道法と国際人権法の歴史的経緯を丹念に検討した川上さんの手腕が、今後警察と軍の境界線をめぐる検討においても発揮されることが期待されます。