一橋大学

2018年7月11日 EUワークショップコメント

2018年7月25日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程1年 氏名:鈴木海斗

 

 

ここでは、2018711日に行われた、EUリサーチワークショップにおける発表について、報告いたします。

 

まず、1人目の報告者は、法学研究科博士3年の葉懿芳さんです。葉さんは、博士論文のテーマである「国際刑事司法の実現における主権国家と国際刑事法廷の相互関係」について報告されました。その研究における問題関心並びに設定としては、国際刑事裁判所(ICC)が、国際犯罪(コア・クライム)を裁くに当たって、締約国との間において競合する管轄権の問題をいかに解決するかを示すことにあるとしています。葉さんによると、ICCでは、その管轄権の在否を決定する際に、従来補完性の原則が適用されてきました。この原則は、国家の刑事裁判権を補完するものとしてICCの管轄権を設定し、国家が「国際的な関心事である最も重要な犯罪」を裁く意思または能力を有していなかった場合に、ICCがその裁判権を行使するという事を意味しています。しかしながら、特に2011年のルト事件判決、2013年のカダフィ事件判決において、ICCが補完性の原則を実際に適用するに際しては、その解釈に問題があるとする反対意見も表明されています。こうした事情に鑑みて、葉さんは、ICCで裁かれるべき重要犯罪であるかどうか、そして国家の意思または能力があるかといった、補完性の原則を成す構成要素を分析することにより、当該原則を批判的に検討していく必要性を示しています。

 

そして、2人目の報告者は、社会学研究科修士1年の木場智之さんです。木場さんは、「ホッブズのトゥキディデス訳出とその特性―平和を見据えて―」というテーマで報告を行いました。木場さんは、ホッブズによるトゥキディデスの著作の訳の仕方並びにその背景を分析することにより、ホッブズがいかに戦争や平和を捉えていたのかを再解釈することができるとしています。それに際して、第1に、従来の先行研究におけるホッブズの分析を参照しています。木場さんは、主にMalcolmTuckといった論者を比較することにより、ホッブズが、先制攻撃をいかなる場合に許容していたかについて、「恐怖」という概念を用いつつ、論じています。その結果として、自然状態においても国家の成立後の国際社会においても存在する自然法と、恐怖の正当化の間には、その対応関係について誤った認識がなされる傾向がある事を指摘した上で、ホッブズが戦争と平和の関係をいかなるものとして理解していたかを見直す必要があるとしています。

 

そのような観点から、第2に、ホッブズに影響を与えたトゥキディデスについて、ホッブズ自身がどう受け止めていたのかを検討しています。そして、そのことを、ホッブズによる翻訳ではなく、その翻訳本をめぐる出版状況に焦点を当てています。そこでは、ホッブズの解釈には当時の社会状況が大きく作用していたことが見出されています。そのことを踏まえ、木場さんは、今後もホッブズの戦争観、平和観を捉え直す必要性を提起しています。

 

以上2人の報告について概観してきました。それぞれが、一見したところでは全く異なる分野を研究しているように見受けられるものの、両者とも、国際関係における国家主権の捉え方について議論を促すものであり、その問題意識は深いところで共通しているのではないかと思われました、