一橋大学

EUworkshop 2017年11月15日 報告者コメント

2017年11月20日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科博士課程の菅沼と申します。

 

1115日のEUワークショップでは、「オーストリアにおける教義誹謗罪(刑法188条)の序論的考察」について報告させていただきました。

 

 

私はこれまで、ドイツを参照国として、神冒涜罪が世俗化して成立した信条冒涜罪について憲法学の観点から検討を加えることを主な研究テーマとしてきました。研究を進めるなかで、ドイツの信条冒涜罪の法解釈に対して欧州人権裁判所の判例が与える影響の程度を検討する必要性を感じ、20171月のEUWSでは欧州人権裁判所の宗教侮辱関連の事案のなかでも、オットー・プレミンガー対オーストリア事件を中心に考察を加えました。

 

 

20171月報告では、オットー・プレミンガー事件で問題となったオーストリアの教義誹謗罪につき、国内法の文脈を十分にフォローするところまで至りませんでした。そこで、今回の報告では、オーストリアの国内法の枠組みに着目して、若干の考察を行いました。

 

 

オーストリアの教義誹謗罪はドイツの信条冒涜罪に類似するものであり、また、ドイツ法とオーストリア法は刑法史的にも密接な関連を有するため、ドイツの信条冒涜罪の特徴を比較法的に浮かび上がらせるうえでは有益な比較対象の一つであると思われます。

 

 

比較憲法的な観点においても、オーストリアはドイツとは異なり、単一の憲法典のみが憲法の法源を構成しているわけではなく、欧州人権条約が直接適用されるといった違いがあります。

 

 

本報告では、教義誹謗罪に関する近年の裁判例として、イスラム教の預言者ムハンマドが年若い妻を迎えたことに対して侮辱的な表現がなされた事件を検討しました。

 

同事案の最高裁判所の判断のなかでは、欧州人権裁判所の判例が多数引用されており、欧州人権裁判所の判例が与える影響の一端を垣間見ることになりました。

 

 

オーストリアの裁判例に対する欧州人権裁判所の判例の射程を見極めるためにも、特に引用されている判例については今後詳細に検討する必要性などを、質疑応答のなかでご指摘いただきました。

 

今後さらに検討を進めてまいります。