一橋大学

EUワークショップ 2024年11月6日 新美華翔さん 報告

2024年11月27日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EU ワークショップ 感想

PM24G010 新美華翔

 

EUワークショップにおける研究では、『ドイツの移民・難民政策において、安全保障と受け入れ政策のバランスはどのように取っていくべきか』をリサーチクエッションとして設定した。また、サブテーマとしては「ドイツ国内の政策決定者が移民受け入れの安全保障リスクをどのように評価し、実際に政策としてどのように扱っているのか」を考えたい。このクエッションは、難民受け入れにおける人道的な義務と国家安全保障との間での対立をどのように解決しているかという重要な問題を扱っているので、移民の人道的側面と国家の治安・社会的安定の責任とのバランスを取るための理論的・政策的アプローチを提供するものであり、政策決定者にとって非常に重要な指針となると考えている。

発表では、リサーチクエッションで触れている「人道的な義務」と「国家安全保障」の定義を定めた後に、ドイツの移民の受け入れの歴史について考察した。「人道的な義務」とは、難民や移民の人権と安全を保護し、基本的な生活条件を確保することを指し、「国家安全保障」とは国家の存在、主権、領土、国民、経済、社会秩序、そして国家の価値観を脅かす可能性のあるあらゆる内外の脅威に対して、国家が適切に対応し、それらの脅威から保護するための政治的、軍事的、経済的、社会的手段の総称を指す。ドイツは、「難民や移民の人権を守らなくてはいけない」義務と「国家を脅かす可能性から国民を守る」という義務をどう調整してきたのか、歴史の中で振り返り説明をした。まだ移民・難民が多くなかった当時のドイツは、そうした対極的な2つの義務を調整することができたが、現在では住民の5人に1人がドイツ国外から移動してきた背景を持っているため、調整がしづらい状況となっている。移民・難民が安全保障上の課題になる一方で、労働市場の維持と経済成長を支える側面を持ち合わせていることからも二つの義務をどう調整していくべきなのか、研究を続けたい。

報告後の質疑応答では、移民と難民を区別して考える必要性についてご指摘を受けた。「移民」と「難民」はどちらも国を移動する人々を指すが、移動してくる理由や法的地位も異なるので分けて考察していきたい。また、発表の際に「ドイツ政府」がどう調整しているのかと「ドイツ政府」と一括りにして言及していたが、その「ドイツ政府」という主語を各政党に解像度を上げて分析することで、「政策評価」としての分析は充分にできるとご意見を頂いた。これからの方針として、「ドイツ」という国ではなく、ドイツの各政党が具体的に挙げている政策目標を詳細に検討・評価していきたい。