一橋大学

EUワークショップ・報告者コメント(14)

2014年11月19日法学研究科

社会学研究科 総合社会科学専攻 歴史社会研究分野修士課程二年

横越建城


皆さん、こんにちは。

社会学研究科修士二年の横越建城と申します。

EUワークショップで報告の機会をいただいきましたので、その内容をお伝えします。

これまで私は、EU研究共同プログラムにおいて、現在のオーストリア・アイデンティティの所在と、ハプスブルク的オーストリアの観光発信を論点とし、報告を行ってきました。

第一回から前回の第四回報告までは、自国史としてのオーストリアと、観光産業内での現代オーストリア・ハプスブルクのイメージを、既存の研究や観光パンフレットの分析等を通じて捉えられないかと調査を行い、ワークショップでの議論を参考に試行錯誤してきました。

今回の第五回報告では、ここにEUという新たな軸を加え、「オーストリア・アイデンティティの分化と局地化 —EU観光補助の枠組み—」というタイトルで、EUの観光産業への補助金の枠組みからこれまでの調査内容を発展させようと試みました。

グローバル化の中で観光産業への投資を進め、観光立国化を押し進めてきたオーストリアでは、観光客に提示する目玉としてハプスブルクがウィーンを中心として文化商品化されてきたこと、またそれが1980年代以降のオーストリア・アイデンティティの揺らぎと相補的な働きを持っていることを前提とし、現在のEUが有する観光補助金の制度体系がこれらを助長してきたのではないかという論旨で報告を行いました。

現在のEUの補助金制度ではオーストリアへと拠出される補助金は、そのほとんどが自然や景観を中心とした農村部の景観保護、あるいは地方の観光インフラ整備に当てられています。これは制度上設けられている申請の単位が共有された文化ではなく、地域空間(自治体やプロジェクト)ごとになっていることを原因としており、結果としてウィーンとは離れた地方が国内・EU内観光産業競争で生き残るために非ハプスブルク化していくという現象を引き起こしています。ここでの因果関係は直接的なものとまでは言い切れず、むしろ非常に間接的な側面しか持っていないとも言えますが、EUという多文化共生的な結合が場合によっては一国のナショナル・アイデンティティに大きな影響を与えかねない制度枠組みを有していることへの問題を指摘するには十分検討の余地ある点と言えます。

より詳細なケーススタディでの補完こそ必要ですが、修士課程での区切りとして、これまでの調査を収斂させていくためにも、この論点を発展させていきたいと思っています。