一橋大学

EUワークショップ・報告コメント(7)

2014年7月15日法学研究科

社会学研究科地球社会研究専攻修士課程2年 南波慧

筆者は、昨年からEUワークショップで「〈境域〉のポリティクス」と題して現代欧州のボーダーに関する問題について発表してきた。これまでの、発表を要約すると、第一回では地中海の域外国境における非正規移民の状況について検討し、第二回では領域的に境界づけることの正統性をアメリカの政治哲学者マイケル・ウォルツァーの議論を基礎に検討した。第三回となる、今回は欧州の法レジーム——具体的にはEU法と欧州人権条約——がどのように「難民」に対して機能しているかノンルフールマン原則を鍵に検討した。

迫害の可能性がある国へ送還することを禁止する、ノンルフールマン原則は普遍的次元においては難民条約と拷問等禁止条約により規定されている。双方の差異は、難民条約は対象者が広い一方で国家による制約可能性が残されており、拷問等禁止条約では国家による適応制限を設けていない一方で、「公務員その他の公的資格で行動する者」による恣意的な暴力を禁止するという条約の目的上対象者が制限される点にある。

欧州においては、これらの普遍的な国際法をより円滑に運用することを可能とする地域的な法体制が構築されている。欧州人権条約において、ノンルフールマン原則は、第3条との関連で問題となる。欧州人権条約が保障する人権は国家による制約可能なものと制約不可能なものがある。第3条は後者の一例であり、欧州人権裁判所の判例においても確認されている。

またEU法の次元においてもEU司法裁判所はリスボン条約以降難民も問題に対しても積極的な判決を多く出している。発表では、セクシャルマイノリティーと迫害の関係性について認める判決を検討したが、この判決自体は自由権規約委員会の見解にそうものであるが、日本における判例(東京地裁平成16225)においては認められなかった点であり重要な者である。

欧州の法体制が難民庇護を促進していることを確認することができたが、欧州諸国がシェンゲン圏外の「安全な第三国」といわゆる再入国協定を結び、非正規移民を送還すること自体を禁止することは困難であり、これらの「安全な第三国」での人権侵害に対して注視する必要がある。

また、中西先生から頂いた、欧州人権条約とEUの関係について検討を深めるべきであるというご指摘は非常に参考になった。