一橋大学

EUワークショップ 2019年6月19日 報告者コメント

2019年7月3日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EUワークショップ 

2019/06/26

発表者 小原敏幸

EUの庇護に関する政策から検討する難民受け入れの分担システム

―ダブリン・システムと再入国協定の視座から―

本報告ではEUの庇護に関する政策として、ダブリン・システムと再入国協定という二つの制度を取り上げて、筆者の修士論文のテーマと関連させてEUにおける難民受け入れの分担システムの行き詰まりを論じた。

第一部では、EUの共通庇護政策(CEAS)を構成するダブリン・システムの内容及び、システムが機能する中で問題化する難民受け入れの負担について言及した。本来冷戦終結前後の避難民の流入に備えるという背景のもと1990年にダブリン条約として導入されたシステムである。ダブリン・システムは、EU加盟国のどこかの国において庇護申請がなされた場合、その庇護申請はルールによって決められた一か国のみが責任をもって審査を行う制度である。このシステムはシェンゲン実施協定とも関連するもので、責任国の決定は優先順位を伴う基準によってなされる。しかし、近年特に2015年以降の難民危機を前に

EUの課題であった庇護のたらい回しやアサイラムショッピングを解消することはできず、また受け入れ国が主にギリシャやイタリアなどの外囲国境国に集中してしまう状況が生じていることを論じた。

第二部は再入国協定についてその内容と難民受け入れの責任の問題に触れながら言及した。再入国協定とは正式に「非正規滞在者の再入国に関する協定」と記され、自国から協定締結国に入国したものが、その入国/滞在資格を得られず退去させられた際に、その者を引き取る「再入国受け入れ」の義務を国家間で「相互に」課すことを定めた国際協定である。1950年代から始まり、現在に至るまでEU諸国とEU域外国との間において多く締結されてきた。また、この協定は国家間レベルだけではなく、EU共同体と第三国との間においてもみられるようになった。再入国協定の効力により、事例として挙げたEU加盟国―ウクライナ間、イタリアーリビア間にみられるように、難民問題の責任をEU国外の第三国へと移すこととなった。そして、最悪の場合、紛争当事国である国へ難民を送還するというノン・ルフ―ルマン原則の違反にまで及ぶこともあることを示した。

このように近年にみられる欧州の難民危機を目前にEU規模の庇護政策が機能不全に陥っていることをダブリン・システム及び再入国協定を用いて論じてきた。超国家的な政策や国家間規模での協定が庇護政策として機能しない中で、近年着目されている「都市レベル」での取り組みを調査すること、つまり、難民の問題をロ―カリティの観点から考察することの重要性を示すことが本報告の目的である。