EUワークショップ 2019年5月22日 報告者コメント
2019年6月28日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程2年 氏名:鈴木海斗
以下では、2019年5月22日に私が行いました、研究報告についての要約です。
私は、「少数民族の権利保護と実質的差別の禁止原則の関連」と題して、博士論文における問題関心を精緻化するために、研究報告を行いました。ここでは、自らの研究テーマである、国際法上の民族的少数者の権利について、その権利保護の性質が、実質的差別の禁止としてのものから集団の権利としての枠組に発展してきたのではないかという問題意識から、欧州人権裁判所判決並びに欧州少数民族保護枠組条約の解釈適用を中心として、そのような流れを支持する事例が見られることを示しました。
その中で、一般的に、実質的差別の是正のための措置は、人種差別撤廃員会並びに社会権規約委員会などの国際人権機関において、「特別な措置」としてみなされていることに触れ、民族的少数者に与えられる「恒久的な人権」並びに「特別な権利」とは区別されている事をまず確認しました。そして、特別な措置はあくまで一時的な性格を有するのに対して、特別な又は恒久的な権利は持続的な法的権利としての性質を想定されていることに触れ、民族的少数者の権利は両側面の性格を併せ持つものであることを示しました。
そして、欧州人権裁判所判決並びに欧州少数民族保護枠組条約の解釈適用においては、差別の禁止に関する条約規定(欧州人権条約第14条、欧州少数民族保護枠組条約第4条)の解釈適用において、実質的には、民族的少数者の権利の包括的保護を図るように発展していることを確認しました。この時、それぞれ、ロマ人に対する差別の禁止に関する判例、スイスに対する一連の勧告を事例として提示しました。
以上の報告に対しては、以下の様なコメント・ご質問いただきました:国内判例が本来先で国際実行は後付けなのであるからその点を考慮する必要がある;他のマイノリティ(移民・難民やLGBT)の権利保護を考慮に入れることにこそ意義があるのではないか;「民族」というレッテルを張った上で保護を図ろうとしても、かえって差別を助長してしまうのではないか;具体的にどういった局面で問題となるかを個々別々に検討しないと、現実と乖離した法規範を提示するだけにとどまってしまう;ボスニアにおける宗教保護、チェコスロヴァキアにおけるドイツ人保護、ヴェルサイユ条約体制下における少数民族保護などの事例を検討してみてはどうか。
いずれのご指摘も、私の報告の欠点・不足部分を非常に鋭く突いたものであったと思います。今後の研究に是非とも生かしていきたいと考えております。私のつたない報告を聞いていただきましたこと、感謝申し上げます