一橋大学

EUワークショップ 2017年5月31日 報告者コメント

2017年7月6日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

EUワークショップ 報告者コメント

 

社会学研究科 歴史学専攻 修士1年 髙橋和浩

 

 

「食」をめぐる議論は、近世以来、政治経済の分野で行われてきた。たとえば、政治的には18世紀スウェーデンにおいて、「コーヒー禁止法」が制定された。19世紀に入るとイギリスは労働者の食卓のために、自由貿易を推進するようになった。そして、19世紀末から国家は国民の「食」を統制し、健全な国民を育成しようと試みてきた。

 

 

これらを一国史的に解釈すればそれぞれが、独自に国内法を成立させてきたように映るが、実はそうではなく、それぞれの時代の覇権国の食文化の受容と並行していた。当然、それはアメリカ食文化の受容にも当てはまった。かつて、1968年運動の学生たちが「マルクスとコカ・コーラで育てられた」と形容されたように、自由と異議申し立ての代名詞としてコカ・コーラは広まり、「コカコーラニゼーション」と名付けられ、文化的な抵抗を引き起こした。同様に、マクドナルドなどのファストフードチェーンも世界各地にその根を下ろした。

 

 

しかし、ポストモダンにおいて、アメリカ食文化は変異を遂げ、社会階層を「肥満」を通じて表すようになった。つまり、社会層が上に行くほど、肉体的に均整が取れた人々が増え、下に行くほど肥満や糖尿病に悩む人々が増えるということである。企業戦略の下の高果糖シロップやファストフードのサイズアップ、政府による子供たちへの食教育の失敗、そしてなにより移民層の貧困が、その原因である。そして、これまでの歴史的過程同様、アメリカ型の社会構造変化は世界に拡散し、EUも同様の問題に悩まされるようになった。World Obesityのデータは所得層ごとの肥満を如実に示している。

 

 

本報告においては、大きく分けて2段階の肥満への取り組みを紹介した。一つは超国家的な枠組みで取り組む、EU Platform on Dietであり、もう一つは国家レベルでのスウェーデンの取り組みである。しかしながら、双方とも、新自由主義のあおりを受けて、その取り組みを停滞させていることが近年の動向からうかがえた。また、司法の面でも肥満を障害と認定され、肥満を対処すべき存在であるという見方に変化が生まれている。

 

 

上述の「肥満」を能動的に減らそうという取り組みの停滞は、比較によって相対化を図られるべきである。そのため、今後はリサーチを広めて、共産主義から転換構造を図った東欧諸国と西欧諸国を交えた考察を図ろうと思う。また、いただいた質問から、企業戦略にフォーカスし、「肥満」を経済資源として利益を上げていくこと、「健康」を資源として利益を上げていく試み、双方へのアプローチも行おうと思う。