一橋大学

EUワークショップ 2016年5月25日 報告者コメント

2016年6月7日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程

石井雅浩

2016525日にEUワークショップ行った「EUのエネルギー外交:「エネルギー同盟」政策の展開と域内・域外関係への影響」と題した1回目の発表について報告します。今回の発表では、昨年度提出した修士論文と今後進めていく博士論文との関係、研究の背景、研究に関わるEU法と行為主体の整理、先行研究の概況と今後の展望について報告させていただきました。

博士後期課程では修士論文で扱った60年代~80年代のNATOを中心としたインフラ事例を活かしつつ、より現代におけるエネルギー・インフラを中心とした対外政策に焦点を当て、その中でEUが展開する「エネルギー外交」を切り口にユーラシアを取り巻くエネルギー関係を研究します。欧州におけるエネルギー分野での協力は、1951年のECSC設立条約に端を発し、欧州統合の中心とも評されますが、エネルギー分野へのEUの権限に関する明文規定が初めて設けられたのは200712月のリスボン条約の成立です。その後、EUのエネルギー外交に対する注目は、「エネルギー同盟」政策の導入や2014年以来のウクライナ危機により高まっています。他方で、EUの法的権限構造は重層的で複雑であり、新たな政策や関連政策の関連性を正確に把握することが実態面を理解する上でも欠かせません。

EUの行動は基本的にEU法体系に依拠して行われます。そこで、本研究はエネルギー外交に関わるEUの条約、法規制、原則等を整理し、EUエネルギー外交の法的枠組みを把握し、同時に関係する諸アクターとその権限を整理します。EUの対外行動の原則と目的は条約(TEU21条)によって定められ、これに基づき個別の対外政策が練られ、様々な権限等の関係を調整し実行されていくことでEUの対外行動が実態を持つことになります。また現在のエネルギー外交に関する権限は、TFEU194条に定められた連合の4つの政策目的に基づき、さらに理事会や欧州議会、欧州委員会によって採択や決定された各政策文書に基づき、個別の地域や国家、国際機関との関係が行われています。今後はEUエネルギー外交の政策目標と能力を個別具体的に検証し、EUエネルギー外交のメカニズムを明らかにします。その際には、EUのエネルギー政策の特徴である、供給の安全保障、環境目標、市場自由化目標のバランスの模索、域内市場の対外的展開といった側面に着目し、目的かつ手段ともなる「複雑なもつれ」(Van Vooren 2012)関係にある3側面を考慮します。

今後の展望としては、一次資料を中心にEUのエネルギー外交の法的な制度枠組みを抽出します。そして、手段としての伝統的外交法の輸出、インフラという側面から、エネルギー外交の「手段」を検討し、EUの対外政策研究を進めていきます。実証分析として事例分析を進め、インフラ計画の有する外交的意義を検討します。エネルギー外交に関わるアクター間の関係も事例研究を通じて検討し、さらに国際機関間関係に着目し、EUのエネルギー外交におけるIEA,OPEC,NATO等に対する対外政策を検討していきます。

報告後の質疑応答では、エネルギー市場全体に関する議論や、需要サイドに関する指摘、EU法関係の重要事項の指摘などを頂くことができ、今後の方向性について有意義なアドバイスを頂け、後期に予定される次回報告に向け、大変刺激となりました。