EUワークショップ 報告者コメント 2025年5月21日
2025年5月26日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
国際・公共政策大学院
グローバル・ガバナンスプログラム
西村朱央
今回のEUワークショップでは、「脅威認識の構築メカニズム―北極における対中脅威認識―」をテーマに報告を行った。本研究では、「なぜ北極において、中国に対する脅威認識の度合いに米国と他の北極圏国の間で差が生まれるのか?」をリサーチ・クエスチョンとして設定している。
この問題の背景には、2013年以降顕著になった中国の北極進出が挙げられる。中国は2018年に公表した北極政策文書である『中国の北極政策』において、北極の発展とガバナンスへの参加を通じた持続可能な発展を政策目標として掲げている。同時に、2015年9月には中国海軍艦艇をベーリング海に派遣し、以降もロシアとの合同軍事演習を実施する等、北極地域に対する軍事的関与を行う能力を誇示している。これらの中国の行動に対し、米国は軍事的脅威をあらわにしている。一方、他の北極圏国は、中国の北極関与は飽くまで経済目的であるとしている。今回の報告では、中国が軍事的とも受け取れる関与を行っているにも拘わらず、軍事的脅威と主張していない国としてデンマークを米国の比較対象としている。
以上を踏まえ、本研究では「北極における中国の行動」という単一の事実に対し、各国の認識に差異が生じるに関心を持ち、脅威認識論や戦略的コミュニケーション論を参照しつつ、各国の政策文書を分析し、脅威認識が構築されるメカニズムを明らかにすることを目的としている。
報告後の質疑応答では、中国の対北極関与目的を軍事と経済とで切り分けることが可能なのか?というご質問を頂いた。また、米国とデンマークはパワーやNATOとの関係性等の観点から、あまりに非対称であるとのご指摘を頂いた。加えて、NATO諸国にとって北極における脅威は歴史的にもロシアである。よって、地理的関係性を考慮するに、中国を主たる脅威として表明することはないのではないか、とのご意見も頂いた。
頂いたご指摘を踏まえ、米国との比較対象国をデンマークではなくEUに変更し、今後研究を進めていきたい。
以上