EUワークショップ 報告者コメント 2025年11月26日
2025年12月3日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EUワークショップ 発表後コメント
社会学研究科 太田駿
今回の報告では、自身の修士論文のテーマである「マッツィーニの政治思想におけるイタリアの独立とヨーロッパの協調」について発表をおこなった。
リサーチ・クエスチョンは「マッツィーニのアソシエーション思想においてイタリア統一思想とヨーロッパ協調思想はどのように両立していたのか」である。本日は論文の第1章にあたる、マッツィーニのイタリア統一思想とアソシエーションの関連について報告した。
第1節ではフランス革命以降に生じたイタリア統一運動の流れを整理している。革命後のフランスの理念がジャコバン主義者らによってイタリアに流入したことや、2度にわたるナポレオン・ボナパルトによるイタリア遠征を通じてイタリアがフランス支配下に置かれ、既存のイタリアの諸制度がフランスの制度に置き換わったことなど、革命後のイタリアはフランスの影響を大きく受けていた。そうした中で愛国者(パトリオット)や秘密結社による活動を通じて、多様な形でイタリアの統一と独立が議論されることになった。一方で、ナポレオンの失脚後に成立したウィーン体制によってヨーロッパの政治状況も大きな動きの中にあった。このような時代背景のもと、マッツィーニはイタリア統一に向けた活動を行なっていくことになる。
第2節と第3節では、マッツィーニのイタリア統一思想について検討している。第2節では、マッツィーニが明確に打ち出した共和主義と統一主義の理念をテクストから読み解き、マッツィーニの歴史観や政治理念を分析している。第3節ではマッツィーニの統一思想の中で運動主体とされた「人民」概念について検討している。マッツィーニにおいては、当時人口の多くを占めていた農民は運動主体としては考慮されておらず、「人民」は都市部の労働者のことを示していた。そしてこうした人民を結集させる手段として提示されたのがアソシエーションという概念であった。それはイタリアを統一と独立に導く手段であり、原理であった。イタリアの人民がアソシエーションに参加し、同胞たちと共に活動することを通じてイタリア国民が形成されるとマッツィーニは考えたのである。
発表後にはマッツィーニのアソシエーションの定義や訳語に関して意見をいただいた。マッツィーニが使用するアソシエーションという語の定義が抽象的なままであるということや、イタリア語のassociazioneの訳語を「アソシエーション」としてしまうことで本来の意味が分かりづらくなるのではないかというご指摘をいただいた。また、リサーチ・クエスチョンのイタリア統一思想とヨーロッパ協調の両立という点に関して、そもそもそれらが対立するものであるという前提部分の説明が不足しているというご指摘もいただいた。これらの指摘を踏まえ、associazioneという概念やマッツィーニの用法の分析を深めると共に、イタリアとヨーロッパの関係性という論文での問題意識をさらに明確化していきたい。


