EUワークショップ 報告者コメント 2025年11月19日
2025年11月26日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
JM250001 長谷川愛
EUワークショップ報告者コメント(2025/11/19報告)
本発表は、MENNESSON対FRANCE事件に関する判例研究であった。
本件は、越境的代理出産によって出生した子の法的地位と、欧州人権条約8条(私生活および家族生活の尊重を受ける権利)との関係が争われた判例である。
事案の概要は以下の通りである。子を望むフランス人夫婦(申立人1・2)が、代理出産が合法的である米国カリフォルニア州において、夫の精子を用いた代理出産契約を行い、双子(申立人3・4)が出生した。現地の裁判所は夫婦を法的父母とする判決を下したが、フランス当局は、代理出産契約が「人身および民事上の身分の譲渡不可能性」という国内の公序良俗に反するとして、フランス国内における出生登録や認知を無効とし、結果として子のフランス国籍を認めない判断を下した。これに対し申立人らは、外国で成立した法的親子関係の不承認が条約8条の侵害にあたるとして提訴した。
判旨において、欧州人権裁判所は、フランスの措置が国内法に基づき、かつ「健康や道徳の保護」等の正当な目的を有していたことを認めた上で、それが「民主的社会において必要」であったか否かを検討した。まず、家族生活の尊重については、親子関係の法的承認がなくとも、申立人らが実質的に同居し、家族としての生活を営むことに支障が生じていない点を踏まえ、条約違反は認められないとした。他方で、子(申立人3・4)の私生活の尊重については、法的親子関係の不確定性が、個人のアイデンティティの核心である国籍取得や相続権に重大な悪影響を及ぼすと判断した。特に、生物学上のつながりがある父との親子関係さえも承認しないことは、国家の裁量権の範囲を逸脱し、子の最善の利益と両立しないとして、子の私生活の尊重を受ける権利について8条違反を認定した。
本判決の意義は、代理出産を禁止する国の法秩序維持と、実際に生まれた子の権利保護とのバランスを提示した点にある。本判決を受け、破棄院は生物学上の父との親子関係を認めるよう判例変更を行った。さらにその後の2019年の勧告的意見では、母親志望者との親子関係についても養子縁組等を通じた法的承認の道が開かれるべきとの方向性が示されるなど、本判決は欧州における生殖補助医療と法制度の在り方に大きな影響を与えた。


