一橋大学

EUワークショップ 報告者コメント (2018年5月9日)ヨーロッパ・デー

2018年5月24日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

2018年5月9日のEUワークショップにおいて「EU域内移住者のトランスナショナリズムと社会的境界の再編――マルチスケール状況におけるスペインとルーマニアをまたぐ移住者の/への眼差し(前編)――」と題する研究報告を行った。
上野 貴彦(Takahiko Ueno )
一橋大学大学院社会学研究科博士課程・国際社会学

日本のEU研究における注目度は低いものの、21世紀に入ってから、ルーマニアからスペイン(そしてイタリア)へは、地域最大規模の人の移動があった。EU市民権の社会学的、そしてスペインにおけるローカルな移民統合政策の分析に不可欠な本事例についての基礎的研究を進めるため、報告者は前年度より連続し、このテーマ についてEU共同研究プログラムにおいて取り組んでいる。
スペインにおけるフィールドワークの成果を含めた、移住者の主観的世界に迫る分析は後編に譲り、前編である本発表は歴史的文脈について、先行研究を整理した。とりわけ、「貧しい地域から豊かな地域に人が移動する」というプッシュ・プルの論理では説明しきれないルーマニア・スペイン間の移動が有する特徴を形成することとなる1990年代までの前史について、民族的マイノリティなどの例外を除けば国外移住が極めて制限されていた社会主義体制期にまで遡り、ルーマニアが大規模な移民送出国となる中で形成していった人の移動のパターンを類型化した。その結果、EU(後期)東方拡大の文脈で西欧諸国への移住が急増する前に、ルーマニアから国外へ移住する様々な経路があり、それは民族的や出身地域など様々なカテゴリーの交差の中で試行され確立していった一方、イスラエルへの労働移民のようにすでにフローが減少した例も多存在したことを明らかにした。ここに、(1990年代にパイオニアが移住し)2000年代に急増したスペインへの移住経路、その中で形成されたトランスナショナルな人々の交流、そしてスペインとルーマニア双方への眼差しや期待のあり方の特徴といったものの連関を位置づけることが次回の課題となる。
報告後のコメント・セッションでは、これまでのEUワークショップで上野が報告してきたスペイン・バルセロナにおける移民に対する「うわさ」への対抗に関する政策や、6月に予定している次回フィールドワークとの関係について質問を受けた。これらの点については、21世紀に入ってから急増するルーマニアからスペインへの人の移動と一部の人々の定住志向(そしてスペインの地域社会への統合)に、次回の発表で言及する際に明確化する予定である。また秋山晋吾先生より、東欧・バルカン地域における人の移動の歴史的文脈と現状について示唆的なコメントを頂くことができた。こちらも次回の発表に活かしたい。