一橋大学

EUワークショップ 報告者コメント 2017年11月22日

2017年12月15日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

EUワークショップ 報告者コメント

 

法学研究科 修士課程

 

吉村真央

 

 

法学研究科修士課程の吉村です。「テロリズム対策に関する安保理の活動の課題―アカウンタビリティー理論からの考察」というテーマで研究を進めています。1122日のEUワークショップでは、「国内裁判所・地域裁判所の判決が国際法に与える影響」というテーマで報告させて頂きました。

 

発表では、安保理のテロ対策の活動としての「狙い撃ち制裁」が問題となった判例として、Kadi事件判決を取り上げ、事実の概要、判旨を紹介しました。そしてKadi事件判決の意義、国際法に与える影響について検討しました。

 

Kadi事件では、第一審裁判所は国際法とEC法の関係を一元的に捉え、国連憲章103条に基づく安保理決議の実施義務が、EC法上の基本権に優先すると判断したのに対して、欧州司法裁判所は、国連憲章はEC域内では二次法には優先するが、一次法には優先しないと判断しました。欧州司法裁判所の国際法とEC法との関係の把握は二元論的と評されます。そして欧州司法裁判所が基本権侵害を認定したのは、その後の狙い撃ち制裁の制度の改善を促す意義があったと評価されています。こうした潮流を、最上は安保理に対するECEU)の「抵抗」としてとらえています。最上は「ヘテラルキー」の概念を提唱しており、これは安保理―加盟国間には一定のヒエラルキーが存在することを前提としつつ、このヒエラルキーの不確定さに注目し、憲章の権力関係におけるヒエラルキーの下位階層から、優先されるべき上位の規範が提示される状況のことを指しています。そしてこうした「優先されるべき規範」が提示される際に、その立論に用いられるのが人権規範であることに注目しています。

 

発表後にはたくさんのご指摘や質問があり、大変参考になりました。判例を扱う際には、もっと論点を絞って取り上げる必要があると感じました。また、自分の研究テーマであるアカウンタビリティー理論との関係性がもっと明確にわかるような判例の取り上げ方をすべきだったと思いました。こうした反省をふまえ、研究をさらに進めていきたいです。