EUワークショップ 報告者コメント (2016年12月11日)
2017年1月25日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EUワークショップコメント(12月11日発表分)
法学研究科修士課程2年の川上です。
12月11日の発表では、私の修士論文の目次をもとに論文の枠組みの説明を致しました。国際人道法と国際人権法の交錯が適用範囲の問題ではなく、法体系間で生じていることを歴史的経緯、両法の関係に関する理論、そして適用範囲から説明しました。
国際人権法という名称は新しいものであり、その名称変更とともに性格の変化が起きていることを中世における騎士道からアンリ・デュナンの『ソルフェリーノの思い出』、そして世界大戦後の戦争違法化と国家の法益から個人の法益へという視点転換からjus ad bellumとjus in belloの関係を記述し、特にhumanity(人道性)という語がリーバー法典では騎士の美徳とされていたものが、サンクトペテルブルク宣言では敵対行為規制の範囲に拡大し、ジュネーブ諸条約追加議定書では個人に権利を認めるまでになりました。しかし、この権利については国家からの恩恵的な指針にとどまり、当時に個人に請求権を認めるまでには至っていません。このような歴史的経緯をもとに両方の関係を分離論、統合論、補完論の三つの視点から再検証し、両法を分かつ戦時・平時二元論は崩壊していることや主体が個人に変更されつつあることから両法の関係は補完的であるという立場をとりました。そして適用範囲のどの部分で交錯が生じているのを明らかにしたうえで、最後に交錯を調和的に処理する方法としての特別法優先原則、マルテンス条項、解釈適用を検討します。
12月11日の発表では、適用範囲の交錯を人的適用範囲、地理的適用範囲、時間的適用範囲から説明し、非国際的武力紛争では常に両法の交錯が生じ、国際的武力紛争では占領地域と領域内自国民に交錯が生じることを明らかにしました。
皆様からは論文の章立てがシステマチックになっていると評価をいただき、また論文タイトルについても改善のコメントをいただきました。発表内容につきましては、両法の区分けについての小国や市民からの要望などが国際人道法に反映されているのか、中世の騎士道を起源としているが国際的に普遍的に受容されているのかなどの新たな疑問をいただきました。非西洋諸国における国際人道法・国際人権法の受容につきましては、博士課程にて明らかにしたいと思います。