2017年6月21日 EUワークショップ報告者コメント
2017年8月28日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程
石井雅浩
2017年6月21日のEUワークショップにおいて「「持続可能な安全保障パッケージ」に関する考察:2017年IGA決定を中心に」と題した研究報告を行った。今回の報告では、本年4月に発効した「エネルギー分野における加盟国と第3国との政府間協定と非拘束措置に関する情報交換メカニズムの設立に関する欧州議会及び理事会決定(Decision (EU) 2017/684)」(以下、2017年IGA決定)の立法過程を、欧州統合の始まりの分野でありながらもっとも遅れたエネルギー分野における昨今の「エネルギー同盟」枠組みの中での統合への取り組みとして検討することで、域内政策というEUのアクター性を自己規定するEU政治とエネルギー対外関係へ与える対外的側面とを分析した。
本報告では、2017年IGA決定の立法過程(並びに政策決定過程)におけるアクターの行動を分析した。そのため、主に4つの文書を手がかりに5つの内容を検討することで、欧州委員会、理事会、欧州議会の3アクターの行動を検討した。4つの文書とは、①2012年IGA決定(Decision No 994/2012/EU)、②欧州委員会改正案(COM(2016) 53 final)、③欧州理事会一般的立場及び欧州議会ITRE修正案を整理した理事会作業文書(Council 12998/16)、④2017年IGA決定である。まず①と②とを比較し、欧州委員会が今次立法過程において、どのような新たな制度を構築しようとしたのかについて、EUからみた権限関係のモデルとして「強化(more Europe)」、「現状維持」、「抑制(less Europe)」という絶対的な尺度で評価・検討した。その結果を踏まえ、②と③とを比較し、理事会並びに欧州議会の立場を欧州委員会提案に対して「強化」「維持(=同意)」「抑制」という相対的な尺度を用いて評価・検討した。さらに、その結果から論理的に導かれるアクター間の妥協形成パターンを特定し④と比較することで、最終妥協がどのような関係でなされたのかを検討した。
検討した結果、27通り想定されたアクター間関係の立場のうち、9通りの関係が確認された。欧州委員会提案は、基本的に現状維持、公式・非公式なEUの権限強化につながる提案を行った。理事会は委員会の現状維持に対しては強化・維持・抑制、強化に対しては維持・抑制、抑制に対しては更に抑制するように内容に応じて様々な姿勢を示した。欧州議会は、抑制的提案ではなく委員会提案より更に権限強化を求める姿勢が示されていた。これらの立場の違いにより、妥協形成は多岐にわたるパターンとなった。それらの主な特徴は、①欧州議会の更なる強化提案がそのまま維持されることは基本的に生じないこと、②理事会の抑制姿勢は強く働き他機関の立場の修正により妥協が生じ易いこと、であった。それゆえ、加盟国のエネルギー政策に関わる分野は、現状においても政府間主義的側面が強く働く政策領域といえる。
最後に、2017年IGA決定そのものが持つ対外的側面については、EU加盟国が第3国と政府間協定を結ぶことを検討する場合、EU法との整合性をガス分野においては事前評価制度の中でとることになり、これは大きな変化である(電力やその他の分野、非拘束措置は許可規定)。実施段階において未知数な面は残されているものの、EU加盟国を分断する様な第3国による政府間協定はより困難となりえる。
報告後に頂いたコメントでは、まず分析枠組みで用いた表現により一部に誤解が生じたこともあり、表現ぶりの再検討をするのに役立った。また、本報告では3つのアクターに限定して検討を加えたが、第3国や利益団体等他のアクターがこの過程においてどのような影響を及ぼしたのか、について示唆的なコメントを頂けた。