一橋大学

2015年11月25日 報告者コメント

2015年12月16日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

1125日に発表いたしました法学研究科修士1年の川上です。

今回は国際人道法と国際人権法の交錯について大雑把ながらも発表いたしました。国際人道法とは武力紛争法と呼ばれ、戦争における非人道的な行為による被害を減少させるために定められた法です。1949年のジュネーブ諸条約がその代表例と言えます。

戦闘行為の規制については古代から「槍に猛毒を塗ってはいけない」等のルールが存在していましたが、正戦論の考えから「悪しき相手は徹底的に罰しなければいけない」という考えになり戦争方法は科学技術の発展とともに凄惨なものになっていきました。これを軍事的状況が許す限りに規制しようとしたのが「戦時国際法」です。平時と戦時の二つに明確に区別された時間軸が戦争違法化によって崩れると「戦時国際法」は「武力国際法」と名称を変え、そこから「国際人道法」とも呼ばれるようになりました。

このような平時戦時二元論の崩壊と共に問題となったのが、国際人道法と国際人権法の関係性です。戦時は国際人道法、平時は国際人権法とすみ分けられていた両者はICJ判決でも認められたように戦時にも国際人権法が適用されることとなり、その交錯関係が問題となりました。

そこで両法体系の関係性を(1)分離論、(2)補完論、(3)統合論という3つの立場から明らかにし、国際人道法(ジュネーブ諸条約とその議定書)と国際人権法(ヨーロッパ人権条約と自由権規約)の規定間の関係性について紹介いたしました。基本的には戦時における両法体系の交錯を今回は発表いたしましたが、平時における軍隊の「法執行活動」についても交錯が生じているといえますので、場面設定を戦時に限定することなく広い視野でこの関係性について明らかにしていきたいと思います。

先行研究ではEU基本権憲章が扱われることはなく、実際に憲章を見ても武力紛争時との関係性が分からなかったのですが、そもそも武力紛争時というのは共通外交安全保障の排他的管轄内であり規定がないとご教示いただけました。また皆さまからは女性や子供といった特に危険にさらされやすい人間に対しての厚い保護はあるのか、国際法の実効性についての疑問などをいただきました。