報告者コメント 2016年6月29日
2016年7月3日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
法学研究科 比較法専攻 博士後期課程 本庄萌
2016年6月29日のEUワークショップでは、「畜産動物福祉法:日米における動向とEUにおける課題」というテーマのもとで、主に日欧における採卵鶏保護に関する法制度に焦点をあてて検討を行った。
動物福祉(アニマルウェルフェア)とは、動物が「個体の現実の生活が苦痛や不快のない、喜びに満ちた状態」(佐藤衆介『アニマルウェルフェア』東京大学出版、2005)にあることである。日本でも、犬猫などに関する動物愛護の法制定が急速に進んでいる。しかしEUにおいては、畜産動物に関しても高い福祉のレベルを確保するための法制度がある。たとえば、EU28カ国では採卵鶏のケージの広さや高さが細かく定められ、鶏の本能に基づく行動を促すよう、とまり木や巣をケージに設置することなどが求められている。
本報告では、このような畜産動物福祉法について日本において語る意義を考察した上で、EU畜産動物福祉法の発展背景・具体例・実効性・課題について検討した。
まず、日本においても畜産動物福祉の問題は他人事ではない。畜産動物福祉法は世界中で発展の一途をたどっており、欧米をはじめ、開発途上国でもEUなどに食品を輸出するために動物福祉のレベルをあげてきている。また、日本も加入しているOIE世界動物保健機構もグローバルスタンダードの取り決めを進めており、農林水産省も近年畜産動物福祉の検討を始めている。
EUにおいては、畜産動物の健康と福祉に反した集約畜産の反省や、食の安全性確保の必要性などを背景に、広範かつ詳細な畜産動物福祉法の制定が進められている。畜産動物福祉に関する指令が適切に執行されるように、欧州委員会の食品獣医局(FVO)は施設の現地査察の役割を担う。また構成国は、国内法化を行い違反の際は罰則適用などを行っている。
最後に、EU畜産動物福祉法の課題としては、実効性確保の難しさ、EU圏外からの食品との競争に関する課題、動物福祉認証の問題点(動物性食品の消費促進と動物福祉に適った農業の両立の難しさ)などが見られる。
報告後の質疑応答では、イギリス離脱の影響があるかと質問を受け、非EU加盟国である近隣国もEUの様々な動物福祉法に歩調を合わせている現状から、さほど影響が少なく今後も発展していくのではないかという私見を述べた。
また、動物福祉政策がもつ、自由競争に制限を加えるという性質や、様々な政策分野に横断的に関わる側面について、様々な質問・アドバイスをいただいた。それらを参考に今後の研究を発展させていきたい。