一橋大学

本の紹介(EUワークショップ所属の大学院生本庄萌さんの書いたもの)

2017年8月11日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

本庄萌『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった。』(ダイヤモンド社、2017)

 

 

著書紹介:

 

 

本書『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった。』は、動物保護施設(アニマルシェルター)の訪問を通して、人と動物の関係を考えることをテーマにしている。

 

「ペットは家族である」という認識が一般的になりつつある今でも、日本では1時間に8匹の犬猫が安楽死処分されている。そのひとつの要因は、保健所と呼ばれてきた動物保護施設が、閉ざされた場所であり続けてきたことである。しかし、筆者が訪問し始めた11年前と比較すると、 日本の動物保護施設は、公営、民営問わず着実に変わりつつあり、 譲渡(新しい飼い主探し)に向けた様々な工夫に富んでおり、明るく、また行きたいと思える場所が増えている。

 

 

本書で訪ねた、イギリス、ロシア、アメリカ、スペイン、ドイツ、ケニア、香港、そして日本の8カ国の動物保護施設(以下、アニマルシェルター)は、それぞれ多種多様な役割を担っている。合計25カ所のアニマルシェルターの訪問記からは、保護の対象となる動物の多様性、担い手の充実性が見て取れるだろう。

 

 

保護の対象となる動物は、日本における従来の保健所のイメージからは野犬が想像されるが、アニマルシェルターで保護される動物は、犬猫などの愛玩動物に限定されない。たとえば、アメリカ・オレゴン州のファームサンクチュアリと呼ばれる場所では、廃業した集約的畜産から保護された豚や鶏などの畜産動物がいきいきと過ごしている。スペイン・バルセロナでは、テレビやサーカスなどのエンターテイメントに利用されていたチンパンジーが、緑あふれる広大な土地で保護されている。また、ドイツ・ベルリンには、実験に利用されていたサルもいる。ケニアでは、アジアに密輸するために象牙を求める密猟者によって、母ゾウを殺された子ゾウの孤児院があり、象牙産業の問題を伝えている。

 

 

また、国内外のアニマルシェルターでは、多様な動物だけではなく、動物保護の担い手となる人々とも出会える。まず、シェルターを運営するオーナー、犬の散歩などをするボランティア、そして寄付をする人々によって、動物保護活動は支えられている。さらに、動物保護は、専門知を持つ人々の活躍が目覚ましい分野でもある。アメリカ・オレゴン州における民営のアニマルシェルターでは、元警察官などがHumane Officerとして動物虐待調査にあたり、併設された動物病院の獣医師は、救助された動物の診察を通して、裁判で動物虐待の事実を証明する役割を担っている。

 

法律の専門家も、動物に配慮した社会に近づける取り組みを後押ししている。スペイン・バルセロナでは、動物法弁護士がカタルーニャ地域での闘牛禁止を実現し、ケニア・ナイロビでも、野生動物犯罪に特化した検察官が、密猟に関する事件を扱っている。

 

 

このように、本書は、閉ざされた場所として捉えられがちなアニマルシェルターの魅力を伝えつつ、動物法の背景となる上記の諸要素に関する示唆を与えている。

 

 

 

より詳細な本の内容紹介は、以下のリンクを参照。

 

http://diamond.jp/articles/-/129166