一橋大学

EUワークショップ 6月29日報告のコメント

2016年7月17日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

こんにちは。法学研究科修士課程二年の川上です。

日欧における畜産動物福祉法の比較について、本庄さんからご報告いただきました。

動物福祉(アニマルウェルフェア)は、動物の権利と比較すると動物利用の許容を前提とし、その利用方法を不必要な苦痛の禁止の観点から禁止する考えですが、何が不必要かは人間の利益との比較考慮で決定されます。前回の発表では実験動物の動物福祉の観点で美容の分野が医療分野に先行して動物実験を全面禁止し、これが日本や他国の企業にも影響を与えているという主旨でありましたが、今回は畜産動物をテーマとして取り上げ、特に産卵鶏を一例としてEUの規制の歴史を紹介しました。

世界動物福祉ガイドラインやWTOの働きかけなどから、世界規模で動物福祉の機運が高まってきていますが、日本では産卵鶏の殆どが狭いケージで育てられ、くちばしの切断や強制換羽のための絶食が行われています。勿論、日本にも関連動物福祉法や指針があるのですが、努力規定に留まるため実効性が疑わしいという問題があります。

一方でEUでは、EU運営条約や理事会指令などで改良型ケージや平飼いに移行するよう義務付け、欧州食品安全庁による報告書などで監視システムもあり、EUレベルでの統一された規制・監視システムが構築されています。国家レベルでも独自の法制度の制定と執行がなされており、リトアニアでは従来型ゲージの使用が減少したものの、チェコやポーランドではあまり改善に繋がっていない等、国によって実効性に差が出てしまっている現状もあります。

EUの課題として足並みを揃えた実効性の確保の難しさや、EU圏外からの安価な食品との価格競争、消費者の認知などが挙げられました。

質疑応答の時間では、EUの動物福祉法は非関税障壁としての作用を有しており、その場合は環境問題と結びついた方が有利なのではないかという意見や、アニマルウェルフェアという定義が動物行動学のものを採用しているが法学者にも一般的に採用されているのかといった質問、更にはBrexit問題による影響などの質問がありました。

「不必要な苦痛の禁止」は私が研究しております国際人道法における人道性のキーワードであり、全く別の分野でありますが、産卵鶏と武力紛争に思わぬ共通キーワードがあったことから大変興味深く、発表を聞かせていただきました。人道性と軍事的必要性の中の比較考慮での中で、人道性の意味と範囲がどんどん変化して人権と似てくるのですが、動物の福祉論もいずれは動物の権利に近づくのか、それとも動物は動物のまま権利主体にはならないのかがとても気になります。

川上 愛