一橋大学

EUワークショップ報告者コメント(1)

2014年4月30日lawit

研究計画発表 第一回

先週水曜日(423日)のEUリサーチワークショップで研究計画発表をしました、社会学研究科修士一年の上野と申します。

4月に入学したばかりの我々修士一年生にとっては実質初回のEUワークショップ。まだ具体的な点について何も詰めることのできないままだからこそ、各研究科の先生方や先輩たちからアドバイスを頂きたく、まだ整理されていない考えを思い切って述べてしまいました。あたたかくも鋭い指摘を多数頂け、良いスタートになったと感じています。

修士論文を書く上での私の主関心はイタリアにおける移民をめぐる状況の地域レベルにおける変化にあるのですが、このEU副専攻においては視点を変え、現在EU内の様々な地域で進行しているユーロリージョンの比較から出発することにしました。

ユーロリージョンとは、EU内外の国境線を超えた地域協力、つまり地方自治体・地元企業・その他諸団体が国境線を越えて行う協力や統合の枠組みのことです。

ヨーロッパ統合という言葉からはどうしても、例えばドイツとフランスといったような国家同士の連合を考えてしまいがちですが、そのもう一つの実態は、今までもこれからも国境を挟んで隣同士にある町同士の関係が変わるというより生活に密着した次元にあるのではないかと思います。こうした「国境のあり方が変わる」という視点からのヨーロッパ統合への注目は決して新しいものではなく、その典型として、古くは1950年代からその原型が形作られてきたユーロリージョンも様々な視点からの分析対象となってきました。

とはいえ、第二次世界大戦終了まもない復興期から協力が始まったドイツ・オランダ間などの例と、1990年代に協力の枠組みが設けられた南欧の事例、さらには2000年代に協力が本格化した東欧諸国の例について個別具体的な例が挙げられることは多くとも、それらが住民の生活に影響を及ぼす様々な分野(教育、観光、交通、福祉など)についての具体的な比較は管見のところ多くありません。

この点に注目し、イタリアを巻き込んだ地域協力のあり方と、より注目されることの多いドイツ・フランス・オランダなどの北西ヨーロッパ諸国間の地域協力のあり方を比較しようという計画を今回は発表したのですが、まだ詳細については未定です。リサーチワークショップで頂いた意見を受けて、まずは多様な経緯を有する「ユーロリージョン」という枠組みについて、各地域の具体例を整理・分類する作業から始めようと考えなおしている所です。

EUの中で様々な形で展開される試みからEUそのものについて考えるのみならず、そこから逆に、EUの制度的枠組みが実際に各地で運用されるなかに生じる意図せざる差異のようなものに注目することに興味があります。行楽に行く、病院に通う、学校に入るといった人々の日常を規定する社会的場面にまで入り込んでいる欧州統合の論理を浮き彫りにすることで、それがもたらした社会構造全体の変化を見出すことができるかもしれません。そのような大きな見通しを立てつつ、今後のEUリサーチワークショップにたたき台を出し続けながら地道に少しずつ勉強してゆきたいと思っております。