2017年1月25日 EUワークショップ 学生コメンテーター
2017年2月25日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
法学研究科法学・国際関係専攻博士後期課程
石井雅浩
今回は1月25日に行われたEUワークショップにおける法学研究科博士後期課程の本庄さんによる「日・欧・米の畜産動物福祉法に関する比較検討―主に採卵鶏を中心として—」報告と法学研究科博士後期課程の菅沼さんによる「欧州人権裁判所における宗教的な侮辱表現―オットー・プレミンガー対オーストリア事件(1994年9月20日判決)の検討を中心に―」報告とについて、コメンテーターとして報告させていただく。
本庄報告
本庄さんは、動物福祉法の比較法研究を実験動物、畜産動物、愛玩動物を対象に進められています。本報告は畜産動物を対象とし、主として採卵鶏を取り巻く状況について日本、EU、米国を比較されました。
本庄報告は、日本における畜産動物の法的位置づけ、EU畜産動物福祉法と採卵鶏保護基準、米国における採卵鶏保護法に関する動向を整理されました。EUの動物福祉法制度が日米に比して厚いこと、米国においては州法レベルの畜産動物福祉法制定が活発化していること、利害関係者である小売業者や食品業者による畜産動物の福祉向上へのシフトがみられることを指摘されました。同報告は、本庄さんのドイツ及びスイス滞在中に行った現地調査の成果も含まれました。
報告後の質疑応答では、EUでは政府や業界による上からの動きが特徴的であり米国は民間や市場、市民による下からの動きがあるのではないかという指摘、世論と政策とでは議論過程で対象の転換が生じているのではないかという指摘、採卵鶏と食肉用とでは違った様相があるのではないかという指摘などがなされました。また、日本よりタイのチキンの方が高い動物福祉レベルを実現しているという報告内容に対してはさまざまな感想が述べられました。今後日本においても動物福祉に関する議論が重要視されていくという報告者による予測も踏まえ、先進的な取り組みが進むEUと州レベルで展開される米国の動向を参照する本研究の進展と次回の報告が期待されます。
菅沼報告
菅沼さんは、ドイツにおける信条冒涜罪を憲法学の観点から考察されています。本報告では、ドイツの信条冒涜罪の特徴を比較法的な視点から浮かび上がらせることを目指し、欧州人権裁判所における宗教的な侮辱表現について検討されました。
菅沼報告は、欧州人権裁判所における事例を概観した上で、オットー・プレミンガー対オーストリア事件について、事実関係や控訴審、ラント裁判所、最高検察、ヨーロッパ人権委員会の判断を紹介し、欧州人権裁判所の判決の概要と争点に関して考察されました。そして、同判決の意義について評価・注目点として「欧州人権裁判所が、信者の宗教的感情と他者の表現の自由とが衝突する事件において、寛容を強調し、しかも「寛容の精神の悪意ある侵害」をみとめたこと」、また問題点として「信者の宗教的感情の尊重」の侵害が認められる基準が必ずしも明確でないこと、慎重な措置がなされた当該事案においての上映禁止・没収措置は表現の自由に対する著しい制約であるとの批判が強いこと、比較法的にも異例な内容の法律に基づいた措置であることを挙げられました。
報告後の質疑応答では、オーストリア刑法188条がドイツにもまして比較法的に異例である点について、主観に左右されてしまうため保護法益を変える流れがある中で特異な事例であることや、そもそもオーストリア刑法188条が成立した歴史的背景やその内容がどれほど特殊なのか、またそうではないのか、メディア法など他の法律との関係性などの議論が展開されました。イスラム批判が公然と言論空間でなされることが日々目につく現代の欧州において、宗教的な侮辱表現を取り巻く法制度への関心は高まっており、今後の研究の更なる発展と報告が期待されます。