一橋大学

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2015年5月25日法学研究科

法学研究科博士課程1年(憲法学専攻) 菅沼 博子

EU研究共同ブログをご覧くださり有難うございます。法学研究科博士課程1年の菅沼博子と申します。

今年度第一回目のEUワークショップにおいて報告の機会をいただき、修士論文「ドイツにおける宗教的侮辱表現―信条冒涜罪の検討を中心に―」のあらましを報告いたしました。

修士論文の内容は、信条冒涜罪(刑法166条)の制定過程・信条冒涜罪をめぐる裁判例の検討とムハンマド風刺画事件へのあてはめ・ドイツの法学者(刑法学・憲法学)の応答状況、などの検討を通じて、日本への示唆を探ろうとしたものでした。

信条冒涜罪は、1969年の刑法改正において神冒涜罪の名称・構成要件の変更を行ったもので、1969年以降は、本質的な変更を経ることなく、現在もドイツの刑法典上に存在しています。このように、1969年以降、条文に大きな変更がない信条冒涜罪ですが、立法府においては、信条冒涜罪の改正(信条冒涜罪削除派 対 信条冒涜罪構成要件拡張派)をめぐる攻防が交わされましたが、結果的に法改正は行われませんでした。

1969年の法改正によって、保護法益が「宗教感情」から「公共の平穏」に変更されましたが、「公共の平穏」をめぐって、裁判例・判例の検討を通じて浮かび上がることは、「公共の平穏」を害する適性というメルクマールの判断の決め手が、冒涜的な言説を向けられた宗教の信者の反応の激しさであった、ということでした。

ドイツ刑法学・憲法学においても、信条冒涜罪の維持・廃止をめぐっては法学界全体として一致した見解がみられず、議論が続けられているといった状況を、ヴィンフリート・ハッセマー(刑法学)やタチアナ・ヘアンレ(刑法学)、ディーター・グリム(憲法学)、ヨーゼフ・イーゼンゼー(憲法学)らの見解の検討を通じて描くことを試みました。

EUワークショップの参加者の方々からは、問題状況の整理の仕方や、「公共の平穏」をめぐる問題状況へのコメントなどを通じて、ひじょうに有益な示唆を得ました。

ドイツの信条冒涜罪をめぐっては、20151月にフランスで起きたシャルリー・エブド事件以降、刑法典上からの維持・廃止をめぐって議論が再び活発になっている状況もあり、今回参加者の方々からいただいたコメントを活かして、研究をいっそう進めてまいりたいと思います。