EUワークショップ 報告者コメント 2025年11月19日
2025年11月21日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EUワークショップ コメント
新美華翔
今回のEUワークショップでは、私は「EUが掲げる“民主主義”を守ることが加盟国に求められているにもかかわらず、非自由民主主義を公言するオルバン首相が、なぜしばしば民主主義の擁護する発言を行うのか」という問いを研究テーマとして設定した。これは近年、EU内部で深刻化している民主主義後退の問題と密接に関連する。
特に東欧・南欧諸国では、ポピュリズム政治の台頭とともに、司法の独立の弱体化、メディアの自由の縮小、市民社会への干渉といった現象が連鎖的に起こっている。ハンガリーのケースはその典型として位置づけられる。オルバン政権は形式的には選挙や議会制度といった手続的枠組みを維持しつつも、実質的な多元性や自由の領域を体系的に削ってきた。そのため、ハンガリーの体制は「非自由民主主義」と呼ばれることが多い。
とりわけ私が強い関心を抱くようになったのは、オルバン政権の政治的行動とEU制度が交差する領域である。EUは加盟国に対し、法の支配・民主主義・人権の尊重を「コペンハーゲン基準」として要求し、加盟国はこれを遵守する義務を負っている。しかし、ハンガリーのように民主主義の実質的側面が後退している国においても、政府はしばしば「我々こそが民主主義を守っている」と主張し、むしろ民主主義の擁護者として振る舞う傾向がある。このような状況は、EUが定義する民主主義の基準と、加盟国指導者が提示する独自の民主主義理解が乖離した結果生じる現象であり、制度上の義務が政治エリートの言説戦略をどのように形作っているのかという問題を浮かび上がらせる。すなわち、EUの規範的枠組みが存在するにもかかわらず、なぜオルバン首相は自らの体制を正当化する際に民主主義という語彙を用いるのか、こうした問いが、本研究の動機と問題意識へとつながっている。
以上の問題意識から、私は「EU加盟国であるハンガリーが、EU的なリベラル民主主義とは異なる独自の民主主義モデルを掲げながら、同時になぜ民主主義を擁護する発言を行うのか」という問いを立てた。本研究では仮説として以下の2点を設定した。 ① 民主主義を擁護する発言は、権力の獲得・維持を目的とする戦略的レトリックである。 ② オルバンの民主主義観は手続的要素に偏り、実質的民主主義を重視しない。 というものである。
しかし、ワークショップでの質疑応答では、これらの仮説とその検証方法について重要な批判が寄せられた。特に仮説①について、“統治の正統性が揺らぐ局面で民主主義擁護の言説が増える”という現象は、ポピュリストに限らず多くの政治指導者に見られる一般的行動であり、仮説としての特異性や分析価値が弱いのではないかとの指摘があった。また、EU加盟国である以上、政治エリートが民主主義的言説を用いるのは制度的圧力や制裁回避のため当然とも言え、そこになぜを問う分析余地をどう確保するのかが問われた。
これらの指摘を踏まえつつ、自身の関心と研究課題を改めて整理し、最終的には修士論文として説得的な議論を構築できるよう、今後も粘り強く取り組んでいきたい。


