EUワークショップ 2024年12月18日 報告者太田駿さんのコメント
2025年1月14日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
社会学研究科 太田駿
今回の報告では、「ジュゼッペ・マッツィーニの思想はどのような思想的意義(貢献)を持つのか」をリサーチ・クエスチョンとして設定し、一つの視角として「リベラル・ナショナリズム」の議論を取り上げた。
近年のグローバル化の進行とともに国民国家は衰退するという議論がある一方で、現実にはむしろ国民国家の役割や国民国家へのアイデンティティの要求が強まっている。こうした議論を踏まえ、多文化共生という文脈で登場したのが「リベラル・ナショナリズム」である。リベラル・ナショナリズムは、社会における多様性を担保しつつ、社会に一体性をもたらす紐帯としての役割を果たすものとしてナショナリティの価値を認め、それと自由や平等といったリベラルな諸価値と結びつけようとする考えである。
そして、こうしたリベラル・ナショナリズムの議論にマッツィーニが登場することを取り上げた。ナショナルな価値とリベラルな価値の両者の関係についての議論は、フランスの思想家ルソーや、ドイツの哲学者カントらの議論にも見られ、その延長にマッツィーニを位置付けることができるという研究を紹介し、マッツィーニとリベラル・ナショナリズムの議論の接点を示した。
報告後の質疑応答では、マッツィーニの思想研究と、リベラル・ナショナリズム研究のどちらに重きを置くのかについて重要なご指摘をいただいた。マッツィーニが生きた19世紀においても、リベラルな価値とナショナルな価値の関係性は常に問われてきた問題であり、まずは、その問題に対してマッツィーニがどう向き合ってきたのかを検討することが重要ではないかという意見をいただいた。また、リベラル・ナショナリズムの議論の批判的な検討をどのように進めるのかについても意見もいただき、今後議論を深めていくにあたり大変参考になった。
今後は、いただいた意見をもとに19世紀という文脈やリベラル・ナショナリズムの議論におけるマッツィーニの位置付けをより明確にしたうえで、マッツィーニの思想的な意義を探っていきたい。