EUワークショップ 2024年11月6日 劉海寧さん報告
2024年11月27日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EUワークショップ 2024年11月6日 報告要約
報告者:劉海寧 社会学研究科博士後期課程1年
今回の報告では、暫定的なテーマとして、「アイルランド共和国におけるアイルランド語状況の再考――言語政策と教育政策を通しての一考察」が設定され、言語政策という切り口を通し、いくつかの社会言語学モデルで言語計画と多言語状況を考察するための図式を提示しようとした。
まず、ハウゲンによる言語計画の定義から、ハインツ・クロスの理論に加え、ステータス計画、すなわちある言語の社会における位置づけ等を調整する計画と、コーパス計画、いわゆる言語自身、例えば文法の定着に向ける計画という、二つの方面からの計画を提示した。このモデルの欠点として、言語だけに注目することで、具体的な政治情勢や経済状況を無視する恐れがあることとなる。そのため、アラシルの理論、カタルーニャ地方の言語状況を社会学的な手法で扱うことを用いる可能性があると考えてみたい。
次に、言語政策、特に自分のテーマにおけるアイルランド共和国の言語状況を考察するには、一つの国または地域内にある多言語状況を明らかにする必要があるため、いくつかのモデルを提起した。最初に、ファーガソンによる「ダイグロシア」という、一つの言語に二つの変種が共存する状況は重要である。これから発展し、スチュワートやフェイソルドは、言語の変種を測定するための標準をいくつか考え、これらの標準で各言語・各変種の社会的位置づけを図ることができるかもしれない。さらに、自分の研究で使いたいモデルとして、ショダンソンによる複数の言語が一つの国の状況を測定し比較するための、ステータスとコーパスを用いるものが挙げられる。それぞれの言語のグラフにおける位置の違いや変化を描くことで、多言語状況の変遷を提示できるかもしれない。
最後に、アイルランド共和国独立以来の言語政策を整理したうえで、いくつかの考えを提示した。
質疑応答の部分では、大月教授は、世代間による言語アイデンティティの相違や、アイルランドの放送状況を踏まえ少数言語に対するリスペクトがどの程度普遍化されているかなどについて着眼点を提示した。また国家による言語政策だけでなく、市民社会による改革運動などの有無についても考察する必要性も質疑応答の中で指摘された。
今後の計画として、社会言語学の文献を読み、言語的な視点からアイルランド共和国の状況を明らかにする。それを踏まえ、教育政策・教育現場という視角から、言語をどのように推進・保存するかという中心的な課題に接近しようとしている。