EUワークショップ 2019年10月16日 報告者コメント
2019年10月18日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
報告者:法学研究科 吉本文
前回に引き続き、「CFSPの共同体法秩序化」というタイトルの下、CFSPに関する事件にもCJEUの裁判管轄権が及ぶ現象をどのように説明できるかについて報告させていただきました。
前半では、モーリシャス海賊引渡事件判決、Elitaliana事件判決、H事件判決では、CFSPと他の政策に共通して適用される手続の存在が、裁判管轄権が認められた根拠とされている旨を報告しました。報告の後半では、そうした手続の存在が裁判管轄権の理由となることを説明しうる理論を提示するために、衛星センター事件判決を取り上げました。その結果、CFSPに関する事件の当事者と他の政策に関する当事者との間で裁判管轄権の有無に差を設けると、同じ手続に関する事件であるにもかかわらず、事件がCFSPに関係するということのみを理由として、CFSPに関する事件の当事者の司法的救済権が奪われてしまうという意味で不平等が生じるという論によって、共通の手続の存在が裁判管轄権の認容を説明できるのではないかとの結論に至りました。
質疑応答では、事件当事者が個人や法人ではないモーリシャス海賊引渡事件判決においては、「不平等」という理由づけによっては、共通の手続による裁判管轄権の認容を正当化することはできない旨のご指摘を、秋山先生よりいただきました。先生のご指摘により、その後の議論では、裁判管轄権を認めた一連の判決におけるモーリシャス海賊引渡事件の位置づけに集中しました。竹村先生からは、モーリシャス海賊引渡事件以外の判決では、「裁判管轄権の否認」と「個人が享受する平等」の利益衡量があった筈であり、モーリシャス海賊引渡事件判決でも、「裁判管轄権の否認」と「なんらかの価値」との間で利益衡量があったのではないか、そして、利益衡量がなされたという点で、モーリシャス海賊引渡事件と他の判決との共通点を見いだせないのかとのご指摘をいただきました。また、最後に、秋山先生より、モーリシャス海賊引渡事件判決で示された「CFSPに裁判管轄権が及ばないことは一般的に裁判管轄権が及ぶという原則からのderogation」であるという解釈指針はその後の事件でも維持されており、この点にモーリシャス海賊引渡事件と他の判決の連続性を見出すことができるのではないかとのご指摘をいただきました。
本報告では、裁判管轄権の拡大の認容は、CJEUの意思によるものというよりも、CJEUが裁判管轄権を認めざるを得ないような角度から当事者が主張を展開していることによるのではないかとの結論を示しました。今回、先生方からモーリシャス海賊引渡事件と他の判決の繋がりについてご指摘いただくことで、「ある判決が次の事件における議論に影響を及ぼすという流れの中で、裁判管轄権拡大の正当化根拠が固まってきており、その流れの中でCJEUが裁判管轄権を認めざるをえない主張が展開されるに至った」旨を描き出すことができれば、モーリシャス海賊引渡事件から続く事件の連続性を示すことができ、これにより、モーリシャス海賊引渡事件と他の判決の関連を提示することができるのではないかと思うに至りました。今後は、この点に留意して研究を進めていきたいと思います。