一橋大学

EUワークショップ 2018年12月19日 学生コメント

2018年12月28日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科 法学・国際関係専攻 博士後期課程1年 氏名:鈴木海斗

 

 

以下では、20181219日に行われました、EUワークショップにおける発表に関して、報告を行います。

 

一人目の発表者は、法学研究科博士2年の葉懿芳さんです。葉さんは、彼女の研究テーマである「国際刑事司法の実現における主権国家と国際刑事法廷の相互関係」における一つの論点として、「非締約国の事態に対する国際刑事裁判所の管轄権の法的根拠」に関して、発表を行いました。葉さんは、国際刑事裁判所(ICC)規程第12条、13条において、安全保障理事会によるICCへの事案の付託が許容されうることに鑑みて、それが非締約国においてもICCの管轄権が及びうることを意味するとして、その根拠について問題意識を持っています。その際、実際にその問題が表れた事例として、スーダン・ダルフール紛争と、リビアにおける紛争を示しています。

 

葉さんによると、ICCが管轄権を行使するには、事案の対象となっている国家が規程に合意しているか、あるいは合意していない場合でも、慣習国際法において、関連する事案をICCが扱いうるという法が形成されているかが必要であるとされており、今回は前者のみを扱うとのことです。その場合、ICC規程と国連憲章のどちらかにその根拠が求められなければならないとして、葉さんは、前者を解釈することによって非締約国の合意を引き出すことは困難であるとして、後者の特に第7章における安保理の強制的措置の一部としてみなされうるかどうかが特に問題であるとしています。ここでは、特にリビアの事例においては管轄権の根拠づけが正当化されうるものの、国家間の合意によって基づくものであったかどうかは言い切れないとして、より十分な根拠づけの必要性を示唆しています。

 

二人目の発表者は、法学研究科博士2年の吉本文さんです。吉本さんは、海外の大学院の博士課程におけるリサーチ・プロポーザルとして、「EU政策間の整合性についての一考察、今後の研究課題及び方法」と題した発表を行いました。吉本さんは、従来のEU法学において、EU諸機関の諸政策の間でとられる「整合性consistency/coherence」がどのようなものであるのかについて、あまり具体的な議論がなされてこなかったとしています。その一方で、特にEUの共通外交安全保障政策とそれ以外の政策の間では、政策決定手続きが異なるという理由から、ある法行為が複数の政策に該当するということは判例で禁じられ、「強制的なタスク配分」が要請されているために、「整合性」をとる必要があるという側面も存在しているともしています。このような現状に鑑みて、より実務に沿った観点から、「整合性」概念を精緻化させることを目的としています。

 

吉本さんは、この際に鍵となるのが、「誠実協力原則」であるとしています。この原則は、EU条約上も規定されているものであり、この原則は、共通外交安全保障政策において、法行為が行われる場合に、他のEU諸機関が、意見や情報の提供等何らかの関与を求めて援用されるものであるとしています。吉本さんは、誠実協力原則の意義について、法行為策定手続における参加の手続への関与までを求めるわけではないことから、先行研究において軽視されてきた側面がある一方で、裁判等で主張されてきたという事実があることから、再検討される必要があるとしています。そして、この原則が主張された背景に関して、裁判資料をはじめとしたソースを詳細に検討することによって、タスクの配分に際して生じる軋轢を明らかにするという点で、研究の独自性を示しています。