EUワークショップ 2018年11月21日コメンテーター報告
2018年12月20日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
法学研究科法学・国際関係専攻博士後期課程
石井雅浩
今回は2018年11月21日に行われたEUワークショップにおける法学研究科博士後期課程の鈴木海斗さんによる報告と社会学研究科博士後期課程の上野貴彦さんによる報告について、コメンテーターとして報告します。
1.鈴木報告「先住民族と少数民族の権利保護規範の比較」
鈴木海斗さんの報告は、冷戦終結後の国際社会において民族紛争への関心が高まってきた中で、先住民族と少数民族に関わる権利規範について集団の権利としての①文化に対する権利と②効果的参加権に主たる焦点を当てた比較分析を報告された。先住民族には少なくとも内的自決権が認められる中で、少数民族について内的自決権が認められるのかについて関心が置かれた。
参加者からは、先住民族に対する権利と少数民族に対する権利について、文化に対する権利で比較することについてコメントが寄せられた。文化に対する権利の内容についてみていくと差異が明確に現れるのではないかという指摘に対し、まずは文化に対する権利が両集団に集団として認められることが一義的に確認される点を強調された。土地に対する権利の位置づけについてさらに議論となった。特定の地域や国際機構に絞った研究の可能性については、その困難性が語られた。個人の人権と集団の権利の関係についても、既存の国際人権法の枠組みから他の権利等を踏まえた議論となった。また、国際法における議論が念頭に置いている同時代的状況やその変遷を考慮する重要性が指摘された。国境と民族の関係について議論となった。
2.上野報告「EU域内移住者のトランスナショナリズムと社会的協会の再編」
上野貴彦さんの報告は、スペイン諸都市における統合政策とルーマニア人の移住と社会統合について論じられた。今夏に行ったスペインでのフィールドワークにおけるルーマニア人聴き取り調査を踏まえた報告である。特にルーマニア人については移民としてではなくEUの人の自由移動の下でのモビリティ・移住であるという面が指摘される中で、その視角の限界について看守できる面があったという。90年代のドイツやカナダへの移住があったうえでの2007年以降であり、再移住したようなパイオニアの存在があった一方、現在ではスペイン全土に広く移住が生じていることを指摘した。パフォーマティブな同化政策における権利主張について、ルーマニア人には様々な背景に起因する抵抗感もあるといった「裏舞台」がみられることや教会の機能の弱さなども指摘された。そのうえで集住地の第二世代には変化の兆しもみられたという。
参加者からは副題にあるマルチスケールな状況についての確認やEU加盟前の状況との比較について質問がなされた。社会主義体制崩壊直後の移住と2000年代以降の移住の違いが先行研究で指摘される中で、それに対する疑問が浮き彫りになりつつあると論じられた。また、本研究の一般化の可能性についてのコメントが寄せられた。また、間文化主義についてケベックとの関係について質問があった。草の根の運動やアソシエーションの活動、それでは補足できない対象についてのコメントがなされた。