EUワークショップ コメンテーターコメント 2025年5月21日
2025年5月26日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
5月21日 EUワークショップ報告へのコメント
コメンテーター
社会学研究科修士2年
太田駿
本日のワークショップでは、劉海寧さんと西村朱央さんの2名による報告が行われた。
劉さんは昨年に引き続き、アイルランド共和国におけるアイルランド語への言語政策という研究テーマのもと、報告をおこなった。
今回の報告では、アイルランドにおけるアイルランド語の状況の社会的な背景を振り返りつつ問題の所在を確認し、現在のアイルランド語をめぐる状況を分析する理論的枠組みを紹介したのち、具体的な言語政策に沿ってアイルランド語に向けた政策の有効性やアイルランド市民の受け止めについての説明がなされた。
分析枠組みについては、「言語政策」と「言語計画」の2つの概念が提示された。言語政策はさらに「実践的機能」と「象徴的機能」に分類され、言語計画についても「言語―社会」、「形態―機能」の指標によって細分化され、ある言語がその地で定着していくまでの過程をより詳細に分析している。
こうした枠組みを用いつつ、劉さんはアイルランドにおける言語政策があまり有効に機能していない点を指摘し、その原因が政策それ自体にあるのか、それともアイルランド語話者の態度や意識と関係しているのかなど、今後の研究に向けて問いを発展させている。
報告後の質疑応答では、アイルランド語と経済発展の関係についての質問が多く上がった。アイルランドの経済発展やアイルランド語の使用割合に果たして因果関係があるのか、地理的・社会的な条件など他の要因も考えられるのではないか、という指摘があり、言語状況を取り巻く様々な要因の可能性が議論された。また、インドネシア語やスワヒリ語など日ヨーロッパ諸国における言語状況と比較して、アイルランド語をめぐる状況の独自性についても議論された。
西村さんの報告では、北極圏をめぐる中国の一連の行動に対する脅威認識のメカニズムというテーマで、北極地域をめぐる中国の動向と北極圏諸国の認識の受け止めの差異がなぜ生まれるのか、というリサーチ・クエスチョンが設定された。
具体的な研究対象として対中路線を進むアメリカと、グリーンランドを自治領にもつデンマークが挙げられていた。
北極圏をめぐる中国の動向や行動は近年注目を浴びており、さらにはロシアとの結びつきも指摘されるなど、国際社会においては中国の振る舞いに関して関心が高まっているという。アメリカは中国の政策やロシアとの共同による軍事行動に対して警戒する一方で、グリーンランド含むデンマークにおいては中国のこうした行動に対して一定の距離を保ち、グリーンランドの世論調査では約4割の住民が中国の影響力拡大に関して否定的ではないというデータも示された。
こうした差異を分析する方法として、国際政治における関わり方や先行研究で示された指標を用いるほか、政府の公的文書や主要メディアによる取り上げられ方に着目し、定性的・定量的の双方の方向からの分析が検討された。
質疑応答では、比較対象となるデンマークの妥当性について活発な議論がなされた。なぜ他の北欧諸国ではなくデンマークなのか、アメリカとデンマークの国際舞台におけるパワーバランスの違いなど、両国は対等な関係として比較できるのかについて考慮する必要がある。また、「脅威」という状況に対しても、それを示す客観的な指標の必要性が指摘され、用語の定義をいかにするのかについても今後の課題として示された。