EUワークショップ 報告者によるコメント 2025年5月28日
2025年6月11日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)
EU ワークショップ コメント
新美華翔
今回のEUワークショップでは、「なぜギリシャの政治エリートは、ハンガリーと異なり、民主主義の制度を守ろうとしたのか?」をリサーチ・クエスチョンとして設定した。
近年、東欧・南欧を中心にポピュリズムの台頭とともに、民主主義の後退が深刻な問題となっている。ハンガリーにおいては、オルバン首相率いるフィデス党が司法の独立やメディアの自由を制限し、民主主義制度を侵食する政策を推進している。他方、ギリシャでは経済危機の中、急進左派連合(SYRIZA)が政権を獲得したものの、制度的な破壊は抑制され、民主主義の機能は比較的維持されてきた。
このような両国の対照的な動向がなぜ生じたのかを問うことは重要である。特に、政治エリートがいかなる理念や戦略を採用し、民主主義制度の維持あるいは破壊に関与してきたのかに注目する必要がある。ハンガリーは、政治エリートによる制度への攻撃的な行動やナショナリズムの強化が顕著であり、民主主義後退の典型例とされている。これに対し、ギリシャは外的圧力や政治文化の違いなどが複合的に作用し、政治エリートが制度を尊重するという例外的な対応をとったと考えられる。
以上を踏まえ、本研究はEU加盟国であるギリシャとハンガリーを比較分析し、なぜギリシャの政治エリートは民主主義の制度的枠組みを守る選択をしたのか、またなぜハンガリーでは民主主義の形式的制度が揺らぐに至ったのかを明らかにすることを目的とする。
ワークショップ後の質疑応答では、ギリシャとハンガリーがそれぞれ左派的政党と右派的政党によって統治されていることから、それを同一条件として比較してよいのかという指摘を受けた。また、ギリシャは歴史的に民主主義の発展度合いが異なり、民主主義の質にも差があることから、両国を同一の土俵で比較することの妥当性についても問題提起がなされた。さらに、「何をもってハンガリーの民主主義が後退していると判断するのか」という点についても問われた。これらの指摘を踏まえ、今後の課題として、「民主主義」および「民主主義の後退」という概念の定義を明確にする必要があると考える。
また、今回の議論を通じて、自身の関心が「政治エリートの行動」にあること、そしてEUという枠組みの中でそれを分析したいという方向性がより明確になった。したがって、次回の発表では、「なぜポピュリストは民主主義を弱体化させる行動をとるにもかかわらず、民主主義を擁護する言説を用いるのか」というテーマに取り組む予定である。