一橋大学

EUワークショップ 2019年11月6日 コメンテーターのコメント

2019年11月11日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

法学研究科:吉本文

張さんと川上さんの報告


1165限のEUワークショップについて報告します。

第一報告は、張さんの「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の不平等性をめぐる論争——1970年を中心に」に関するものでした。張さんは、以前より同テーマについて報告されてきましたが、今回は、研究対象を1970年に絞った研究の計画について報告されました。

張さんは、制度自体が不平等なNPT-IAEA体制に各国が1970年に加入する、またはしない理由は、「グラウンド・バーゲン」によって説明できるのではないかとの仮説を、ゲーム理論の計算によって証明するという研究計画を提示されました。

質問・コメントの時間には、まず、「グラウンド・バーゲン」の意味について問われました。張さんによりますと、「グラウンド・バーゲン」を、「不平等を基礎として加入国に利益を付与する考え」として用いているとのことでした。この回答を受けて、国際法の竹村先生からは、国際法の観点からは、特に人権や軍縮の分野では、体制への加入・脱退の動機は常に各国の利益にあるのではなく、国家は人類全体の利益や国際社会のために動くこともあるのではないか、そしてこの点を考慮すれば、「グラウンド・バーゲン」という理論によって仮説を検証するのは妥当であるのか、という点が指摘されました。また、張さんは、「fairness」を自国にメリットがあることと解釈されている点につき、経営管理研究科の小川先生からは、経済学では、「fairness」は、資産格差がないことを指すのであり、張さんの解釈の妥当性が指摘されました。「グラウンド・バーゲン」の問題も、「fairness」の問題も、種々の用語の定義を確定させる必要があると感じました。

第二報告は、川上さんの「国際人道法(IHL)の普及・教育」に関するものでした。今回は、「法のマニュアル化」というご報告予定の学会のテーマにあわせた内容でした。具体的には、日本・カナダ・バルカン国家が実施している国際人道法を一般市民に教える取組みはどのようなものか、そして、その課題は何かについて報告されました。

ご報告後には、PKOに積極的なカナダや、紛争当事国であるバルカン諸国における国際人道法の教育の必要性は理解できる一方で、なぜ日本にはそのような取組みが実施されているのか、また、実施の意義は何かについて質問がなされました。さらに、今回の報告は、川上さんの今までの報告とは方向性が異なるものであったことから、博論における本報告の位置づけに関する質問も出されました。こうした取り組みへの反対意見が日本国内では根強いことについて、我が国における今後の国際人道法教育はこうした問題をどのように克服していくのかについて考えさせられました。